どうも、木村(@kimu3_slime)です。
今回は、証明の教科書「Book of Proof」を参考に、数学の文章・証明をわかりやすく書くために気をつけることを紹介します。
理由を具体的に述べる
証明の基本的な目的は、ある事実が正しい理由を述べることです。そのため、理由ひとつひとつを具体的に書いた方が親切でしょう。
良くない:\(x=2k\)とする。
良い:仮定より、\(x=2k\)と表せる。
より良い:仮定より\(x\)は偶数なので、偶数の定義より、\(x=2k\)と表せる。
どこまで理由を詳しく書くかは、伝える相手に依存します。例えば自分が理解するために書くならば、何を参照しているかすぐさま辿れるようにしておくと良いと思います。
文章を句点。で終える
数学の証明は、人に数学的内容を伝えるための文章です。文章であるからには、文同士の区切りを明確にするため、句点。で文を終えた方が良いでしょう。
良くない:仮定からAB =AD
良い:仮定から、AB=AD。
区切りが明確になることで、証明を支えるひとつひとつの事実が明確になります。
日本語の文章にありがちな傾向ですが、句読点のない長い文は、数学に限らずわかりにくいです。もし多くの内容を表現したいなら、複数の文に分割して述べましょう。
動詞を省略しない
数式が登場すると、しばしば動詞が省略されるのを目にします。
良くない:\((x-1)(x-2)=0\) \(x=1,2\)
良い:因数分解により、\((x-1)(x-2)=0\)が成り立つ。よって、\(x=1\)または\(x=2\)である。
僕自身、昔は「数式の変形のみ」を書いていました。中学の幾何の証明も、しばしば動詞が省略されています。しかし、それは数学的事実の説明としては、不親切なものです。
中学の幾何の教材でしばしば見られる、「ACは共通」といった主張は、省略しすぎて意味が不明瞭です。「辺ACは、(2つの三角形において)共通しているので」といった意味でしょう。
等式を述べるときも、単に「\(a=b\)」と書かれることが多いです。しかし、それは「\(a=b\)である。」「\(a=b\)が成り立つ(成立する)。」「\(a=b\)が従う。」を意味します。
日本語はでしばしば「カレー」と言うだけで「カレーが食べたい」を意味したりします。しかし、その意図があるなら、最初から省略せずに「カレーが食べたい」といった方が多くの人が正確に意味を取ることができますよね。
読者の動詞を補う能力に期待・依存せずに、私は何を言っているのか、それをはっきりさせましょう。
それ(代名詞)を避ける
「それ」などの代名詞は、数学であってもなくても、指す言葉を明確でなくします。
良くない:\(a,b,c>0\)なので、それらの積は正である。
良い:\(a,b,c>0\)なので、\(a,b,c\)の積は正である。すなわち、\(abc>0\)である。
表現がくどくなってでも、何を、どの記号を指しているのか、「それ」ではなく、固有名を使ったほうが良いと思います。前後の流れから察しなければならない文よりも、参照するものが最初から明確になった文の方が良いでしょう。
「すべての」を省略しない
記号を用いた命題で、それが「すべての」ものに当てはまることなのに、しばしば省略されることがあります。
良くない:\(x,y>0\)ならば、\(xy>0\)である。
良い:すべての実数\(x,y\)に対し、\(x,y>0\)ならば、\(xy>0\)である。
この「すべての」は、「あらゆる」「任意の」とも言いかえられるものです。中学や高校の数学で、この「すべての」という条件は省略されがちですが、それは数学の論理の理解を妨げているのではないか、と僕は思っています。
実際の入試問題でも、誤った言葉使いによる問題が出題されたようです。
点\(x,y\)は任意の実数\(\theta_1, \theta_2\)に対して、\(x=\cos \theta_1+\cos \theta _2\)、\(y=\cos 2\theta_1+\cos 2\theta_2\)を満たしている。
参考:【悪文】こんな入試問題は出さないでほしい[慶應2019年]〜全称と存在について〜
この文章では、\(\theta_1,\theta_2\)はあらゆる値に変化することになってしまいます。これを満たすような\(x,y\)は存在しません。\(\theta_1=\theta_2 =0\)ならば\(x=2\)ですが、\(\theta_1 =\theta_2 =\frac{\pi}{2}\)ならば\(x=0\)で、矛盾します。
問題文は「ある実数\(\theta_1,\theta_2\)に対して」というべきものでしょう。\(\theta\)に恣意性がないと強調したいならば、「任意に与えられた実数\(\theta_1,\theta_2\)に対して」と言えば良いと思います(とはいえ紛らわしいと思いますが……)。
そもそも、「\(\theta_1,\theta_2\)が存在する」と文字で書いた時点で、一般の(何の制約条件もない)\(\theta_1,\theta_2\)が表現されていることに注意しましょう。
記号を言葉で補足する:存在を省略しない
数学的な記号は、とても便利です。しかし、証明の文中で記号を説明なしに使うと、論理や文章の流れを追いにくくなります。
良くない:\(x\)は2の倍数だから、\(x=2k\)。
良い:\(x\)は2の倍数だから、\(x=2k\)を満たす\(k\)が存在する。
より良い:\(x\)は2の倍数だから、\(x=2k\)を満たす整数\(k\)が存在する。
\(k\)が導入された新しい記号です。しばしば、「\(x=2k\)とする。」というように省略されがちです。これでは、\(k\)がそれ以前に導入された定数か何かなのか、とも思ってしまいます。
ここでは定義によりその存在が保証された\(k\)を導入して、特にその\(k\)は整数であることを明示すると親切になります。
使わなくて良い記号を使わない
良くない:3以上の素数\(p\)は奇数である。
良い:3以上の素数は奇数である。
何か命題を述べるときに、使わなくて良い記号は導入を避けた方が良いでしょう。
仮に証明するならば、そのときに「3以上の素数を\(p\)とする」と記号化を宣言すれば良いので。
以上、数学の文章・証明をわかりやすく書くために気をつけることを紹介してきました。
これは僕が気をつけていることなので、「絶対に守らなければならない」という性質のものではありません。簡潔に書くためには、適切に省略したほうが良いこともあります。
数学の文章や証明を読み書きする中で、自分なりのわかりやすくするための心がけを見つけてみてください。
木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。
Richard Hammack (2019-07-19T00:00:01Z)
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