常用対数の頻出値log_10(2),log_10(3)を、テイラー展開で求めてみよう

どうも、木村(@kimu3_slime)です。

今回は、常用対数の頻出値\(\log _{10} 2,\log_{10} 3 \)を、テイラー展開で求める方法を紹介します。

 



常用対数の頻出値

常用対数とは、底を10とする対数\(\log _{10} x\)のことです。

\[ \begin{aligned}\log _{10} 2 \simeq 0.3010\cdots\end{aligned} \]

\[ \begin{aligned}\log_{10} 3 \simeq 0.4771\cdots\end{aligned} \]

といった値は有名で、高校数学ではこの値を既知として問題を解くことが多いです。例えば、\(2^{50}\)は何桁の数なのか、常用対数を使えば求められます。常用対数の値は常用対数表としてまとめられており、教科書に書かれていることもあります。

 

では、こうした常用対数の頻出値\(\log _{10} 2,\log_{10} 3 \)そのものは、どうやって求めたものなのでしょうか。

今回は、それを自然対数\(\log_e x \)の近似値を求めることに帰着させます。自然対数の近似値が求まれば、底の変換公式\(\log_{10} x =\frac{\log_e x}{\log _e 10}\)によって、常用対数の値が求まるわけです。

 

テイラー展開で近似値を求めてみよう

必要な近似値は、\(\log_e 2, \log_e 3,\log _e 10\)です。

自然対数のテイラー展開

\[ \begin{aligned}\log _e (1+x) =x- \frac{x^2}{2}+\frac{x^3}{3}-\cdots\end{aligned} \]

を使って、近似値を求めてみましょう。

といっても、この展開式の利用には注意が必要で、\(-1<x\leq 1\)でしか成立しません。\(|x|\)ができるだけ小さくなるように変形してから、計算すると良いでしょう。\(|x|\)が大きいほど収束は遅くなり、最初の数項で近似したときの誤差が大きくなります。

 

\(\log _e 2\)の近似値を計算しましょう。

\(2=\frac{4}{3}\cdot \frac{3}{2}\)と分解すれば、\(\log_e 2=\log_e(\frac{4}{3}\cdot \frac{3}{2})=\log_e (1+\frac{1}{3})+\log_e (1+\frac{1}{2})\)です。それぞれをテイラー展開で近似します。

\[ \begin{aligned} \log _e (1+\frac{1}{3})&= \frac{1}{3}- \frac{1}{2\cdot 3^2}+\frac{1}{3\cdot3^3}-\cdots \\& \simeq 0.29 \end{aligned} \]

\[ \begin{aligned} \log _e (1+\frac{1}{2}) &=\frac{1}{2}- \frac{1}{2\cdot2^2}+\frac{1}{3\cdot 2^3}-\frac{1}{4\cdot 2^4}+\cdots \\ & \simeq 0.40 \end{aligned} \]

したがって、\(\log_e 2 \simeq 0.29+0.40=0.69\)となります。

それぞれの式の誤差の大きさは、\(\frac{1}{4\cdot 4^3},\frac{1}{5\cdot 2^5}\)より小さい、すなわち\(\frac{1}{100}\)より小さいです。

 

\(\log_e 3\)の近似値は、ここまでの近似値から計算できます。\(3= 2\cdot \frac{3}{2}\)に注意して、

\[ \begin{aligned}   \log_e 3 &= \log_e 2 + \log_e (1+\frac{1}{2}) \\ & \simeq 0.69+0.40 \\ &=1.09 \end{aligned} \]

です。

 

\(\log_e 10\)を求めるには、\(10= 2^3 \cdot \frac{5}{4}\)なので、\(\log_e\frac{ 5}{4}\)のテイラー展開の近似値を計算します。

\[ \begin{aligned} \log _e (1+\frac{1}{4})&= \frac{1}{4}- \frac{1}{2\cdot 4^2}+\cdots \\& \simeq 0.22 \end{aligned} \]

したがって、

\[ \begin{aligned}   \log_e 10 &= 3 \log_e 2 + \log_e (1+\frac{1}{2}) \\ & \simeq3\cdot 0.69+0.22 \\ &=2.29 \end{aligned} \]

 

以上の計算と底の変換公式によって、常用対数の頻出値の近似値が求まりました。

\[ \begin{aligned}\log_{10}2 =\frac{\log_e 2}{\log_e 10}\simeq\frac{0.69}{2.29}\simeq 0.30\end{aligned} \]

\[ \begin{aligned}\log_{10}3 =\frac{\log_e 3}{\log_e 10}\simeq\frac{1.09 }{2.29}\simeq 0.48\end{aligned} \]

\(\frac{1}{100}\)程度の誤差はありますが、きちんと求められています。

計算の簡略化のため、今回はテイラー展開の最初の3-4項しか使っていませんが、項を増やせばもっと精度をあげることができます。

三角関数や指数関数のテイラー展開では係数に\(\frac{1}{n!}\)がかかって素早く収束しますが、対数関数ではそれが\(\frac{1}{n}\)でしかなく収束が遅い、という理論的な違いが影響していますね。

 

以上、常用対数の頻出値\(\log _{10} 2,\log_{10} 3 \)を、テイラー展開を使って求めてきました。

実際には常用対数表やコンピュータを使って計算することが多いでしょうが、その近似値を求める原理的な計算として、テイラー展開の手法が有効であることを感じてもらえたら嬉しいです。

木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。

 

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