どうも、木村(@kimu3_slime)です。
今回は、可逆な行列(正則行列)、その同値な条件、逆行列の求め方を紹介します。
可逆な行列とは
ごく簡単な1次方程式\(ax=b\)は、\(a=0\)のとき解が定まりませんが、\(a\neq 0\)のときは\(x= a^{-1} b\)と解が定まります。
線形代数では線形方程式\(Ax=b\)を考えますが、これが\(x= A^{-1}b\)と解けてくれないでしょうか? \(A\neq O\)だからといって、解が一意に存在するわけではないことは、これまでに見てきました。
参考:1次方程式を行列で解くメリット・方法・条件について、幾何学的に見る
数\(a\)の逆数\(a^{-1}\)ならぬ、行列\(A\)の逆行列\(A^{-1}\)とはなんでしょうか。
行列\(A\)を\(N\times N\)の正方行列とします。
\(AX=XA =I\)を満たす行列\(X\)を、\(A\)の逆行列(inverse matrix)と呼びます。\(I\)は単位行列(対角成分以外0、対角成分がすべて1の行列)です。
そして、逆行列が存在するような\(A\)を、\(A\)は可逆である(invertible)、可逆行列と定義します。可逆な行列は、正則行列(regular matrix)、非特異な行列(nonsingular matrix)、非退化行列(nondegenerate matrix)とも呼ばれます。(正則行列という呼び方は日本語の教科書ではスタンダードですが、regular matrix とはあまり言わないようです。)
逆行列が存在する例、存在しない例
対角成分が0でない対角行列には、逆行列が存在することがわかります。
例えば、\( A=\begin{pmatrix} 2& 0\\0&3 \end{pmatrix}\)とすると、\(A^{-1}:=\begin{pmatrix} \frac{1}{2}& 0\\0&\frac{1}{3} \end{pmatrix} \)は逆行列です。
なぜなら、\(A^{-1} A =\begin{pmatrix} \frac{1}{2}& 0\\0&\frac{1}{3} \end{pmatrix}\begin{pmatrix} 2& 0\\0&3 \end{pmatrix} =\begin{pmatrix} 1& 0\\0&1 \end{pmatrix}=I\)だからです。
対角行列の逆行列は、ほぼ逆数と同じ扱いができますね。対角行列ほど単純に見えなくても、一般の行列は可逆であったり、そうでなかったりします。
逆行列が存在しない例を挙げましょう。
\( B=\begin{pmatrix} 1& 2\\2&4 \end{pmatrix}\)には、逆行列が存在しません。
背理法で示します、仮に\(BX=I\)なる行列\(X\)が存在したとしましょう。両辺にある行列を左からかけると、\(\begin{pmatrix} 1& 0\\-2&1 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} 1& 2\\2&4 \end{pmatrix} X=\begin{pmatrix} 1& 0\\-2&1 \end{pmatrix}\)ですが、左辺は\(\begin{pmatrix} 1& 2\\0&0 \end{pmatrix} X\)です。左辺の行列の第2行は0ベクトルですが、右辺の第2行は0ベクトルではないので、両辺は等しくありません。これは矛盾なので、逆行列は存在しないことが言えました。
ここでかけた行列\(\begin{pmatrix} 1& 0\\-2&1 \end{pmatrix}\)は、第1行の-2倍を第2行に加える基本行列です。この例で見たように、もし基本変形をしていって、ある行が0になってしまうなら、逆行列は存在しません。一般に、ランクが落ちている(\(\mathrm{rank}A <N\))ことと可逆でないことは同値であることが知られています。
参考:線形方程式の解き方:ガウスの消去法と基本変形・ランク、LU分解
行列の計算では、たし算とかけ算は常に定義されていますが、「割り算」は一般には定義されません。というのも、逆行列が存在しない行列があるからです。\(Ax=b\)を形式的に\(x= A^{-1}b\)と解くためには、「\(A\)は可逆な行列かどうか?」をチェックしなければなりません。
可逆な行列の同値条件
可逆な行列には、多くの同値な条件が知られています。
次の条件は同値。
(1) \(A\)が可逆行列である
(2) 行列の行ベクトルが線形独立
(3) 行列の列ベクトルが線形独立
(4) 行列がフルランク(\(\mathrm{rank}A =N\))
(5) 核が0(単射)
(6) 像が最大 \(A(\mathbb{R}^N) =\mathbb{R}^N\)(全射)
(7) 線形方程式\(Ax=0\)の解が一意に存在(自明解\(x=0\)のみ)
(8) 線形方程式\(Ax=b\)の解が一意に存在(\(x= A^{-1}b\))
(9) 行列式が0でない \(\det A \neq 0\)
(10) すべての固有値が0ではない
(2)-(8)の同値性は、次の記事で紹介しました。行列のランクは、可逆行列にどれだけ近いかを表す数値であると見ることもできますね。
参考:線形写像の核とは・性質、線形方程式の不定性を調べる、線形方程式と線形写像の像、次元とランクの関係、次元定理の例、証明、応用・同型写像について解説
(1)と(2)-(8)の同値性は、ガウスの消去法によりわかります。
行列式、固有値については別の記事で紹介予定です。
参考:なぜ行列式を学ぶ? 面積・体積との一致、ヤコビアンへの応用
可逆でない行列は、次の条件のいずれかを満たすものです。
次の条件は同値。
(1) \(A\)が可逆行列でない
(2) 行列の行ベクトルが線形従属
(3) 行列の列ベクトルが線形従属
(4) 行列がランク落ちしている(\(\mathrm{rank}A <N\))
(5) 核が0でない(単射でない)
(6) 像が最大でない \(A(\mathbb{R}^N) \subsetneq \mathbb{R}^N\)(全射でない)
(7) 線形方程式\(Ax=0\)の解が無数に存在(自明解\(x=0\)以外の解が存在)
(8) 線形方程式\(Ax=b\)の解が無数に存在するか、存在しない
(9) 行列式が0 \(\det A = 0\)
(10) ある固有値が0
さきほどの例がこれらの条件を満たすかチェックしてみましょう。
\( A=\begin{pmatrix} 2& 0\\0&3 \end{pmatrix}\)については、行ベクトルが線形独立ですし、\(Ax=0\)の解は\(x=0\)のみです。行列式は\(\det A =2\cdot 3=6 \neq 0\)であり、固有値は2と3であり0は存在していません。
\( B=\begin{pmatrix} 1& 2\\2&4 \end{pmatrix}\)については、行ベクトルは線形従属ですし、\(Ax=0\)には\((x_1,x_2)=(2,-1)\)という非自明な解があります。行列式は\(\det A =1\cdot 4-2\cdot 2= 0\)で、固有値は0と5なので0を含んでいます。
今回は、可逆な行列の定義、その例、同値な条件を紹介してきました。逆行列の実際的な求め方は、ガウスの消去法によるものがあるので、それは別記事で紹介しました。
可逆な行列は行儀の良い行列ですが、線形代数的な見方によって多くの同値条件がわかっているのは嬉しいですね。
木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。
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