どうも、木村(@kimu3_slime)です。
小学校の算数では、最初に位取り記法を習います。10をひとまとめの単位として扱い数を書く。1より細かい数も、1.414と小数で表す。
これは今となっては当たり前の習慣です。しかし、人類にとっては大きな発明だったんじゃないでしょうか。
数学の歴史の本「小数と対数の発見」を読み、天文学と小数の発見についての話が面白かったので、紹介します。
小数は数ではなかった?
まず話の舞台を、日本ではなく、古代の西洋文明としましょう。特に紀元前のギリシャの数学から始めます。
明らかに思える幾何学の性質を公理から論証するという、ユークリッドの「原論」は、数学にとって大きな発明でした。
一方で、それは純粋な数学ではありますが、当時は一般の人が使う計算技術との距離があったようです。
かくして「ギリシャでは ‘数’ という単語は整数だけに対して使われ、分数は単一の要素とみなされることなく、二つの整数のあいだの比ないし関係とみられていた」のである。ピュタゴラスやプラトンの数学すなわち算術(アリトメティケー)は基本的に自然数の数論であった。
それにたいして商業や技術の世界では、もちろん分数もはるか昔から使用されていた。ギリシャ世界においても「〔数学者と区別される〕計算家たちの方は、エジプトやバビロニアの先人たちとおなじように、分数あるいは分数と整数の和などを平気で数として扱い、何の躊躇も感じていなかった」。
引用:小数と対数の発見 p.19
現在の感覚だと、1より小さい数を扱うのは当たり前に思えます。例えば1リットルのペットボトルに半分残った水を見て、それは0.5リットルだと思っておかしくはありません。500ミリリットルと言えば整数に、1/2リットルと言えば分数にはなりますが。
数学者のピタゴラスは、直角三角形の辺の長さに関してピタゴラスの定理を残したことで有名です。しかし、底辺1高さ1の三角形からは、整数の比=分数で表せない数、無理数\(\sqrt{2}\)が登場していまいます。無理数が存在するという事実を、ピタゴラス学派の外へ知らせようとした人は、教団によって殺されてしまったというエピソードは恐ろしいものです。
それだけ数=ここでは自然数の美しさが大事とされていたのでしょう。数の理論としては自然数は面白い対象ですが、これでは測量など現実への応用が難しそうです。
観測にもとづく学問としての天文学
小数の利用を見出したのは、どうやら天文学であったようです。
古代天文学は、紀元2世紀のアレクサンドリアのクラウディアス・プトレマイオスによって集大成され、彼の主著『数学集成』によって今に伝えられている。その『数学集成』には書かれている:
算術計算においては〔これまでの〕分数システムは使いにくいため、われわれは60進法のシステムを使用する。そしてわれわれは、つねに近似をより向上させるために、その方式で感覚によって到達しうる精密さとの違いが無視しうる程度になるところまで掛け算や割り算を進める。
引用:小数と対数の発見 pp.24-25
例えば星の位置や、角度を予測したいとしましょう。それは数式の上で理論的に求めるだけでなく、実際の観測と精度良く一致することが求められます。空間における点の位置を、整数の比として精度良く表現するのは難しいので、1以下の小さな数を桁毎にとらえる小数の考え方を利用するようになったのでしょう。
現代に生きる僕には、天文学はあまり馴染みのないものです。星座、天の川、プラネタリウム……くらいの印象しかありません。しかし、当時の天文学は実用的な側面の多いものだということに気づき、驚きました(もちろん今も役立つ面はあると思いますが)。
星の運行を調べることは、典型的には正確な暦の作成に役立ちます。言われてみれば、カレンダーがなければ、だいたいいつ頃に春が来るのか、順番はわかってもいつのタイミングなのか予想できないでしょう。季節の把握は、作物の種を蒔く時期=農耕に役立ちますし、また祭りや儀式、星占いといった人々を結束するきっかけとなります。後の時代になれば、船での航海での方向づけ、航海術での需要が増したでしょう。
言葉や頭の中に閉じた思弁的な理論ではなく、理論と観測を組み合わせた学問であった天文学は、後の(近代)物理学のさきがけとなったのでしょう。こうした実用的な学問の中から、小数が見いだされていった、という流れは知らなかったので驚きです。
観測の精度をあげればいくらでも「真実の値」に近づきますが、それには限度があるので必要な桁で打ち切って、小数として扱います。物体の位置や運動、角度や面積を考えると、小数……そして実数に突き当たります。実数の特徴、厳密な定義付けがされたのは、1800-1900年代と比較的最近のこと。
実用的には小数・実数は必要ですが、整数の比で表せない数を、認めたがらなかったギリシャの学者の気持ちもわからなくはないです。僕の個人的としては、形式・理論としての数学が、天文学や物理学といった現実的な応用と相互作用しながら発展していくのは、とても面白いことだと思いました。
「小数と対数の発見」はKindle Unlimitedで読み放題なので、ぜひチェックしてみてください。
木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。
日本評論社 (2018-07-30T00:00:01Z)
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