論理学におけるジレンマとは:具体例を交えて解説

どうも、木村(@kimu3_slime)です。

今回は、論理学におけるジレンマという用語、その回避方法について解説します。

 



ジレンマとは

ジレンマ(dilemma)は、2つの選択肢のいずれかを迫る推論のことです。その選択肢は、どちらを選んでも望ましくないケースが多い。

di-が2つの、lemmaが補助的なお題、つまり選択肢を意味するため、ジレンマとは2つの状況から選ぶこと、二者択一を意味します。

 

例を見てみましょう。(いわゆる「ヤマアラシのジレンマ」の改変)

ハリネズミたちは寒いと、満足な生活を送れない。痛くても同様である。彼らは、身を寄せ合うとハリが刺さって痛いし、身を寄せ合わないと痛い。よって、彼らは満足な生活を送れない。

このように、2つの前提のいずれを選んでも1つのカテゴリー的な命題による結論が得られるようなジレンマを、単純なジレンマ(simple dilemma)と呼びます。

普通は結論が望ましくないものを考えますが、「いずれにせよ満足である」というタイプの結論でも、ジレンマではあります。

 

違う例を挙げましょう。

スペースシャトル・チャレンジャーの爆発事故の調査について、NASAの長官からの批判を受け、物理学者リチャード・ファインマンは次のように言った:

私たちが上のレベルの管理者たちと話すときはいつも、彼らはその問題について何も知らないとしか言わなかった……。トップのグループが問題を知らないならば、知るべきだったし、知っているのならば、私たちに嘘をついていた、そのいずれかだ。

引用:James Gleick, “Genius: The Life and Science of Richard Feynman”

最後の文はジレンマです。前提は「トップのグループは問題を知っているか、知っていないのいずれかである」は正しく、そのとき二者択一の結論「彼らは知るべきだったか、または嘘をついていた」が導かれます。

このように、前提2つが「または」でつながれた条件的命題で、結論も「または」でつながれた命題であるとき、このジレンマを複合的なジレンマ(complex dilemma)と呼びます。

 

ジレンマの回避方法

ジレンマの結論を回避する方法が、3種類知られています。

角の間を行く

(horns)は、当たると痛い嫌なものの例えで、ジレンマの2つの選択肢のことです。ことわざの「牛は角をつかんで立ち向かえ Take the bull by the horns.」によるものですね。

例を見てみましょう。

もし司令官が忠義深ければ、彼は彼自身の命令に従うだろうし、もし彼が賢ければ、彼は命令を理解するだろう。しかし、司令官は彼自身の命令に従わないか、理解しないかのいずれかである。したがって、司令官は忠義深くないか、賢くないことにならざるをえない。

このジレンマは、妥当な推論です。

しかし、その前提を突くことはできます。司令官は、命令に従わないか、理解しないかのいずれかでもありうるが、命令を理解し従う人もいるかもしれない。そのような司令官については、結論は正しいとは言えない。

このように「または」を使った前提をが成り立たないケースがあることを示すことを、角の間を行く(going between the horns)と言います。

前提で無理な二択を迫っているときは、この論法が使えますね。

 

角をつかんで立ち向かう

もう一つの方法は、「かつ」を使った前提を否定する方法です。

すべての政策のねらいは、保守か変化のいずれかである。保守を狙うならば、物事を悪くするような変化を防ぎたいと思うが、変化を望むならば、何かをより良くしたいと思う。したがってすべての政策は、より良くまたはより悪い考えによって導かれる。

Leo Strauss, “What Is Political Philosophy?”

この例ならば、「保守を狙うならば、物事を悪くするような変化を防ぎたいと思うが、変化を望むならば、何かをより良くしたいと思う。」の一方を否定します。

例えば、変化を望むのは、現状維持に飽きていて、別に何かをより良くしたいと思わず、単に刺激が欲しいからかもしれない。だから前提は正しいとは言えない。

このような論法を、角をつかんで立ち向かう(grasp the dilemma by the horns)と言います。

 

対抗ジレンマによって反論する

最後に紹介するのは、ジレンマに対抗するジレンマを作る方法です。

息子に政治に関わらないように説得する母:

もしあなたの言うことが正しければ、人々はあなたを嫌うでしょう。そして間違っているならば、神があなたを嫌うでしょう。しかしあなたは正しいことか間違っていることか、いずれかを言わなければならない。だからあなたは嫌われるでしょう。

これと同じ論理、ジレンマを使って反論するのが次の例です。

もし私が言うことが正しければ、神は私を愛するだろうし、間違っているならば、人々は私を愛するだろう。私は正しいことか間違っていることか、いずれかを言わなければならない。だから私は愛されるだろう!

見事な反論ですね。このように、もともとのジレンマと同じ種類のカテゴリー命題を使って、正反対の結論を持つジレンマを作ることを、対抗ジレンマ(counterdilemma)による反論と言います。

全く同じ論法を使わなければいけないので、対抗ジレンマを作るのは難しいですね。しかし、その分説得力があるように見えます。

 

今回は、2つの選択肢を選ばせるがどちらも望ましくない状況となる推論、ジレンマを紹介しました。

ジレンマに遭遇したら、前提を突くか、あるいは対抗ジレンマを作ることで、結論を回避したり反論したりすることができます。

たいていジレンマは困った状況ですが、角をよく観察することで、第三の道を見出すことはできるかもしれません。

木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。

 

 

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参考文献

Copi, Cohen, McMahon
 “Introduction to Logic”

 

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