「わかりやすい」だけでなく、面白くきちんとした数学を伝えたい

どうも、木村(@kimu3_slime)です。

数学を紹介するサイトを運営していて、普段から、「どうすれば面白い数学をより簡単に伝えられるか?」を考えるようになりました。

ネットや書店では、「やさしい高校数学」「わかりやすい○○」「マンガでわかる○○」といった本や動画を見かけます。

それらは確かに役立つのですが、何か物足りなさを感じてしまう。その物足りなさについて、今回は考えてみます。

 



前提として:わかりやすいのは良いこと

まず、「やさしい高校数学」「わかりやすい○○」「マンガでわかる○○」といった一般向けの文章や動画は、数学に親しむために良いものだと僕は考えています。

特に、数学に苦手意識を感じている人や、新しく学び始める人は、数学で使われている言葉に面倒くささや恐怖を感じるのではないでしょうか。

例えば、知らない人からすれば「微分」と書いてあってもどう読めば良いか、読めたとして何を意味しているのか、どのレベルのものなのかわからないでしょう。

こうした感覚的なレベルで数学に馴染みがない人にとって、一般向けのコンテンツは、カロリーが低く、触れやすいものでしょう。

全く触れないよりは、簡単にでも触れていた方が、より本格的な学びをするときに楽ですから。

このサイトでも、教科書以外の入門書や映画を紹介しています。集中して取り組むのって大変ですし、カジュアルに数学に触れる機会は増やしたいです。

参考:「趣味の大学数学」おすすめ入門書籍・教科書・参考文献

 

「わかる」、あるいは納得することは、数学だけでなく、どんな学びをするときにも大事な気持ちだと考えています。

最近読んだ文章で、計算の訓練だけでなく、中身を理解しようとすることも重要だという話があり、面白かったので引用しておきます。

世間には、「数学が苦手な生徒はマークシート式だけ解ければよい。記述式の問題を解くのは、数学が得意な生徒だけで十分だろう」という困った意識が、数学を指導する者も含めて広く蔓延(はびこ)っている。

数年前に、これに関して桜美林大学の学生にアンケート式に尋ねたことがあるが、ある学生が述べた次の回答には目が覚める思いがした。

「確かに、試験の点数を取ることを考えるとマークシート式のほうが便利かも知れません。しかし苦手な者でも、本心では時間を掛けてでも数学を本当によく理解したいのです。『苦手な者は理解する必要はなく、答えの当て方だけ覚えて試験をパスすりゃいいじゃないか』という、苦手な者をバカにする態度がなくならない限り、大多数の生徒が数学好きになることはないと思います。理解の遅い生徒にマッチした教育体制もとれるように、日本の制度を変えてほしいです」

引用:「私大文系に数学は不必要」という迷信が根強く残る3つの理由

 

「数式を使わない」わかりやすい本、逆にわかりにくい問題

話題の焦点を、数学の一般の人向けの解説書にしましょう。科学全般の解説書をイメージしてもらっても大丈夫です。

よく宣伝文句として使われるのが、「数式を(できるだけ)使わない」というものです。

本の売れ行き的に言えば、一般向けの内容で数式を減らすのはありうる判断かもしれません。

しかし、過剰に数式を避ければ、かえって科学や数学の理解は難しくなります。数式は、複雑な現象を、シンプルな式によって記述し、分析するための言葉です。

もちろん、数式だらけの文章をいきなり読む気はしないでしょう。重要でないポイントの数式を減らし、理解のために必要な数式を丁寧に解説する必要はあります。

一方で、文字だらけの文章によって数学を理解することもまた、不可能でしょう。数学でない解説によって理解できるのは、受け売り以上のものになりにくいです。

(正直に言えば、わかりやすいことを謳ったコンテンツも、出来はまちまちです。もちろんよくできたものもあります。逆に、難しい箇所の説明を避けたせいで、理解しにくいこともあります。一般向けの本を試してみてわからなかったからといって、自分の頭が悪いとは思わない方が良いでしょう。きちんと書かれた本の方が、わかりやすい可能性があります。)

 

「わかりやすい」の先へ

僕が「趣味の大学数学」で提供したいコンテンツのレベルは、「わかりやすい」系と大学の(学部程度の)数学を結びつけるようなものです。

ただ「わかりやすい」だけだと、僕はどうしても不満足です。

仮に(高校)数学の教科書や授業で言われていることが理解できて、試験で良い点が取れるようになったとしても、もっとその先を、広く深い世界を知りたいと思うのです。

つまり、数学をツールとして使えるだけでなく、人類が築いてきた数学・科学の知識を読み解けるようになりたい。

 

そういう意味では、ブルーバックスの本や大学数学の解説書(not教科書)は、「わかりやすい」だけではないもの、難しいけれども面白いトピックを紹介していて、良いと思います。

しかし、僕の個人的な経験では、「難しく面白いトピックがある」ことは解説書からわかっても、その本ではそれを理解できないことがほとんどです。

教科書のように順番に知識を積み重ねて解説するわけではなく、高度な知識をかいつまんで紹介しているにすぎないので、理解できなくても気にすることはないでしょう。

 

じゃあ、難しいけど面白い話を、わかる話にするために、どうすれば良いのか。

僕は解説書をいろいろめくっていた時期がありました。しかし、ある一定以上は、あまりためにならなかったと感じています。いつまでも、「印象」以上に理解が深まることがありませんでした。受け売りの説明はできるようになっても、根本的な理解はできません。

今になって思うのは、大学レベルの教科書をわかるレベルのところから読んでいって、理解を積み重ねていく以外に方法はないです。

しかし、それができれば苦労しない。一般向け解説書では物足りないレベルと、大学数学の教科書のレベルにはギャップがあると思います。

僕は高校生のときに大学数学を学ぼうとして教科書を読もうとしましたが、そもそも読み方がわかっておらず、一歩も先へと進めませんでした。

なぜかと言えば、当時は「数学の教科書の基本的な読み方」や「(数理)論理と集合論」を知らなかったからです。

大学数学の基礎である厳密さを身につける方法は、一般書ではほとんど書かれていません。しかしながら、大学数学の教科書では、半ば当たり前となっています。(大学では、数学科の授業や演習科目で鍛えられる)

参考:大学数学の教科書の読み方、最初に「定義・命題・証明」を知ろう集合論のはじまり、全称命題と存在命題、論理記号を知ろう

 

「趣味の大学数学」は、読み物としての数学入門サイトを謳っています。

しかし、趣味や読み物であるからといって、レベルを下げてしまえば、その楽しみが失われてしまうものと考えています。

 

  • 計算に偏らない:「できる」ことに偏らず、なぜそのトピックを学ぶか前提を掘り下げる
  • 数式から逃げない:数式は必ず文章を交えて説明するが、数式を避けることをしない。
  • きちんとした理解への橋渡し:「お話」に終わらず、教科書を読めるレベルまで解説する。
  • 面白い数学へ:大学数学が社会や諸科学で応用されている例や、数学研究の話と、学部数学を結びつける

これらを全部達成するのは難しいですが、ひとつの指標として意識していきたいと思います。

木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。