安定性を判別するリヤプノフ関数の方法とは?

どうも、木村(@kimu3_slime)です。

線形な微分方程式の平衡解の安定性は、固有値の実部の符号を調べることで判別できます

そして非線形方程式であっても、平衡解の付近で線形化することで、固有値がすべて負の場合には、漸近安定と言えるのでした。しかし、固有値がすべて負ではない場合、安定性の判別ができません。

今回は、固有値に頼らずに非線形方程式の平衡解の安定性を調べる、リヤプノフ関数の方法を紹介します。

(リヤプノフ関数は、ロシアの数学者アレクサンドル・リヤプノフにちなんだ名前。日本語では、リアプノフ、リャプノフ、リャープノフと表記されることも。)

 



リヤプノフ関数の方法

微分可能な関数\(f:\mathbb{R}^N \to \mathbb{R}^N\)が定める微分方程式系

\[ \begin{aligned}\frac{dx}{dt}= f(x)\end{aligned} \]

を考え、\(\bar{x}\)という平衡解があるとします。さっそく定理を述べましょう。

定理

\(U\)を\(\bar{x}\)の近傍とする。

\(V:U\to \mathbb{R}\)を次の条件を満たす\(C^1\)級関数とする。

\(V(\bar{x})=0\)

\(x\neq \bar{x}\)ならば、\(V(x)>0\)(この2つの条件を、\(V\)は正定値 positive definite であるという)

\(x\neq \bar{x}\)ならば、\(\frac{dV}{dt}(x)\leq0\)

このとき、\(\bar{x}\)は(リヤプノフの意味で)安定。

さらに、次の条件を満たすならば、\(\bar{x}\)は漸近安定。

\(x\neq \bar{x}\)ならば、\(\frac{dV}{dt}(x)<0\)

参考:Wiggins Introduction to Applied Nonlinear Dynamical Systems and Chaos

定理中の\(V\)をリヤプノフ関数(Lyapunov function)と呼びます。もしリヤプノフ関数を見つけることができれば、安定性や漸近安定性が判別できるわけです。

リヤプノフ関数は、系のエネルギー(ポテンシャル)を表すものと考えられます。実際、運動方程式を元にした方程式では、リヤプノフ関数を力学的エネルギーとして定めるとうまくゆくことが多いです。

安定性に関する条件は、\(\frac{dV}{dt}(x)= (\nabla  V)\cdot \frac{dx}{dt} \leq0\)です。

これは、時間経過とともにエネルギーが(広義)単調に減少していくことを意味しています。\( (\nabla V)\cdot \frac{dx}{dt} \leq0\)は、ベクトル場の矢印が\(V\)の減少する方向を向いている。

エネルギーが増加はしないということは、解は近傍にとどまり続けます。そしてエネルギーが0になるとき、それは平衡解\(\bar{x}\)にたどり着いたわけです。

\(\bar{x}\)を底とした\(V\)の等高線(contour)をイメージするとわかりやすいでしょう。

画像引用:Wiggins Introduction to Applied Nonlinear Dynamical Systems and Chaos

 

リアプノフ関数の方法の具体例

具体例をひとつ考えましょう。

\[ \begin{aligned}   \left\{ \begin{array}{l} \frac{dx}{dt} =-y – x(x^2+y^2)  \\ \frac{dy}{dt} = x-y(x^2+y^2) \end{array}  \right.\end{aligned} \]

では、\((0,0)\)が平衡解です。線形化行列は

\[ \begin{aligned}\frac{dx}{dt}= \begin{pmatrix} 0 & -1 \\ 1 & 0 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} x \\ y \end{pmatrix}\end{aligned} \]

で、固有値は\(\pm i\)です。固有値の実部は負ではないので、固有値による安定性判別はできません。

そこで、\(V(x,y)=\frac{1}{2} x^2 + \frac{1}{2} y^2 \)という関数を考えます。定義域は\(U=\mathbb{R}^2\)です。

この\(V\)は、\(V(0,0)=0\)で、\((0,0)\)以外では\(V>0\)です。

そして、\((0,0)\)以外で

\[\begin{aligned} \frac{dV}{dt} &= (x,y)\cdot(-y – x(x^2+y^2),x-y(x^2+y^2)) \\ &= -2(x^2+y^2)\\ &< 0  \end{aligned}\]

なので、\(V\)はリヤプノフ関数。定理より、平衡解は漸近安定です。

 

このように、固有値による判定ができないときでも、リヤプノフ関数さえ見つけることができれば、安定性は判別できます。

問題点は、リヤプノフ関数を見つける画一的な方法はないことです。減衰系、散逸系では存在することが多いです。

リヤプノフ関数の方法の拡張として、\(\frac{dV}{dt}\leq 0\)であっても追加の条件があれば漸近安定性が言える、ラ・サールの不変原理(LaSalle’s invariance principle)が知られています。

参考:LaSalle’s invariance principle – Wikipedia,LaSalle, J.P. Some extensions of Liapunov’s second method

また、今回考えたのは常微分方程式でしたが、偏微分方程式でも同様の手法があり、リヤプノフ汎関数(Lyapunov functional)と呼ばれています。

参考:F Mazenc, Strict Lyapunov functionals for nonlinear parabolicpartial differential equations

線形方程式とは異なり、非線形方程式を調べる一般論は存在しそうにありません。非線形方程式の解の安定性を調べる手法のひとつとして、リヤプノフ関数の方法を覚えておくと良いですね。

木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。

 

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