どうも、木村(@kimu3_slime)です。
数学、科学全般に登場する「線形・非線形」という用語を、詳しく解説します。
この言葉を理解するポイントは、「何が」線形・非線形なのか意識することです。順に見ていきましょう。
目次
数学に登場する「線形・非線形」
最初に、数学に登場する「線形」、線形関数、線形空間、線形方程式について紹介します。
関数が線形・非線形
最もシンプルかつ根源的なのが、関数が線形・非線形という話です。
砕けた言い方をすれば、グラフが直線形になる関数が線形関数で、そうでない関数が非線形関数です。
- 線形な関数の例 \(f(x)=x,2x,Ax\)
- 非線形な関数の例 \(f(x)=x^2,\sin x, e^x, \log x\)
より正確には、関数\(f\)が線形(linear)であるとは、
- 加法性(additivity) 任意の\(x,y\)に対して、\(f(x+y)=f(x)+f(y)\)
- 斉次性(homogeneity) 任意の\(x\)、任意のスカラー\(k\)に対して、\(f(kx)=kf(x)\)
の両方が成立することです。
\(f(x)=2x\)は、加法性と斉次性を明らかに満たし、線形です。\(f(x)=x^2\)は線形ではありません。\(f(1+1)=4\neq 2= f(1)+f(1)\)なので。
関数が線形であることを、関数が線形性(linearity)を持つ、とも言います。
\(A\)を\(N\)次正方行列、\(x\in \mathbb{R}^N\)として、\(f(x)=Ax\)と定めると、\(f\)は線形関数です。これは行列の線形性によるものです。
逆に、\(x\in \mathbb{R}^N\)を変数とする一般の関数\(f\)が線形性を持つとき、それを行列によって表現することができます(これを表現行列という)。
\(f(x)=Ax\)をベクトルの変換として見るとき、これは線形変換(一次変換)とも呼ばれます。
関数\(f\)の変数\(x\)が、数やベクトル以外、例えば数列や関数のときにも、線形性の定義は同じです。
線形な写像は線形写像、線形な作用素は線形作用素(線形汎関数)と呼ばれます。例えば(単純な)微分作用素や積分作用素は、線形作用素です。
空間が線形・非線形
\(n\)次元のベクトルを集めたユークリッド空間\(\mathbb{R}^N\)は、線形空間(ベクトル空間)の一例です。
また、直線や平面といった集合は、(高次の)ユークリッド空間の線型部分空間となっています。ざっくり言えば、和やスカラー倍について閉じていて、線形に見える対象です。
より一般には、集合\(V\)が体\(K\)上の線形空間(linear space)とは、
- 和と呼ばれる演算が定まり、\(V\)が和について可換群
- スカラー倍と呼ばれる演算が定まり、\(x,y\in V, \lambda,\mu \in K\)に対し
\[ \begin{aligned}(\lambda+\mu)x = \lambda x + \mu x \\ \lambda (x+y)= \lambda x+ \lambda y \\ (\lambda \mu)x= \lambda (\mu x) \\ 1x=x\end{aligned} \]
が成立することと定義されます。
線形空間は、ユークリッド空間の性質を取り出して一般化したものと言えます。
例としては、(一定のサイズの)行列全体のなす集合、連続関数全体のなす集合、\(K\)係数の多項式の全体、1次方程式の解の集合、線形微分方程式の解の集合などは、線形空間です。
線形空間のいくつかのベクトル\(x_1,\dots,x_k\)をスカラー倍でつなぎあわせたベクトル\(\lambda_1 x_1 +\dots+ \lambda _k x_k\)は、ベクトルの線形結合(linear combination)と呼ばれるものです。複数のベクトルの線形結合全体を集めた集合は、部分線形空間となります。
参考:基礎講義 線形代数学
方程式が線形・非線形
物理現象、自然現象を説明する微分方程式ですが、線形微分方程式と非線形微分方程式に分類されています。
簡単な例で言えば、バネの運動方程式は線形方程式です。
\[ \begin{aligned} m \frac{d^2 x}{dt^2} = – kx\end{aligned} \]
一方で、振り子の運動方程式は非線形方程式です。
\[ \begin{aligned} m \frac{d^2 x}{dt^2} = – k \sin x\end{aligned} \]
線形方程式の特徴は、解の重ね合わせの原理(superposition principle)が成り立つことです。
つまり、\(x_1,x_2\)を方程式の解、\(\lambda\)を定数とするとき、\(x_1+x_2\)も解、\(\lambda x_1\)も解となる。
重ね合わせの原理が成立する方程式を、線形方程式と呼びます。そうでない方程式が、非線形方程式です。
重ね合わせの原理は、これまで説明してきた関数、空間の線形性によっても表現できます。
つまり、方程式を作用素\(F\)によって\(F=0\)となる形に表し、\(F\)が線形作用素となるとき、方程式は線形である。また、方程式の解のなす集合が線形空間となるとき、方程式は線形である。こう言っても同じです。
熱の伝搬や粒子の拡散を説明する、熱伝導方程式(拡散方程式)は線形偏微分方程式です。
\[ \begin{aligned}\frac{\partial u}{\partial t}= \Delta u\end{aligned} \]
一方で、化学物質の化学反応と拡散を説明する、反応拡散方程式は、非線形偏微分方程式です。
\[ \begin{aligned}\frac{\partial u}{\partial t}= \Delta u + f(u)\end{aligned} \]
参考:花粉の広がりを数式で予測する、拡散方程式とは、生き物の模様は数式で決まる? チューリング・パターンとは
微分方程式が線形だと、多くの場合は解の存在と一意性が保証され、明示的に解を得る手法が広く知られています。(ただし、偏微分方程式においては、線形であっても解が存在しないものが知られています。参考:Lewy’s example – Wikipedia)
常微分方程式の教科書では、まずは線形状微分方程式の解放を学ぶことになるでしょう。
一方、非線形微分方程式では、解の存在と一意性すらわからないものも存在します。
例えば、流体の運動を記述する(3次元)ナビエ・ストークス方程式の解の存在となめらかさは、ミレニアム問題と呼ばれる今なお未解決の難問です。
また、解の存在と一意性が保証されたとしても、解が明示的な形(わかりやすい計算式)で表示できるとは限りません。そのため、解の表示式を得ずとも解の挙動を調べようとする、力学系理論という分野が生まれてきました。
参考:惑星の運動は数学的に「解けない」? 多体問題から力学系理論へ
総じて、線形方程式は数学的に扱いやすいけれども表す現象が単純で、非線形微分方程式は表す現象が豊かだが扱いにくい、という関係性にあります。
科学全般に登場する「線形・非線形」
数学における「線形」の概念をベースにして、科学全般に線形という用語は使われています。
線形構造解析と非線形構造解析
機械や構造物に負荷がかかったときの変形を扱う材料力学では、非線形構造解析という用語があります。
ひずみによって大きな変形が起こるときは幾何学的非線形性、金属材料を例としたひずみと応力の間の材料非線形性、滑りや摩擦といった境界の非線形性などがキーワードです。
画像引用:構造解析に入る前に 知っておきたい「常識」 – 土木学会
線形システム
線形システムとは、一般には、連立線形微分方程式のことです。
特に制御工学の一分野として、線形システムを使ってその安定性や可制御性を調べる分野は、線形システム論と呼ばれています。
一方、非線形システムを対象とする場合、非線形子システム論と呼ばれます。
制御工学は、例えば自動運転車の制御などに応用できますね。
参考:線形システム論 I. 概論、非線形システムの表現 – システム制御理論研究室 – 北海道大学、自動運転今昔物語 – 自動車技術会
線形回帰・非線形回帰
統計学には、回帰理論と呼ばれるものがあります。
例えば、年齢と収入に関する離散的なデータがあったとして、それらをできるだけ誤差なく結びつける連続的な関数(モデル)を得るのが回帰分析です。
そして直線的な関数(線形関数)によって説明しようとするのが、線形回帰。そうでなく、多項式関数などを使って回帰を行うのが非線形回帰です。
参考:【初心者大歓迎!】線形回帰分析入門 ~ 最小二乗法から決定係数まで – Np-Urのデータ分析教室
非線形現象、非線形数理、非線形科学
非線形現象とは、非線形な方程式によって表される自然現象全般を指す言葉です。
自然現象をより正確に記述しようとすれば、ほとんどの現象は非線形現象と言えますが、あえて非線形現象というときは、次に紹介するような非線形特有の現象を指しています。
- パターン形成
- リズム現象、同期現象
- カオス、分岐現象
爆発現象
参考:カオス理論、バタフライ・エフェクトとは何か? ローレンツ・アトラクターを例に
非線形現象を扱う数理科学は非線形数理、またその科学全般は非線形科学と呼ばれています。特にコンピュータの発展、シミュレーションと視覚化により、注目を集めるようになってきた分野です。
こうして「非線形」という用語が一般に飛び出すと、「1+1=2にならない世界」といったよくわからない説明が見られることがあります。
今回紹介したように、数学用語としての「線形」の意味を抑えて、「何が」線形なのかわかれば、一般に使われる「非線形」に惑わされることもなくなるでしょう。
木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。
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