どうも、木村(@kimu3_slime)です。
僕は大学で数学を学ぶうちに、数学の専門用語は必ず英語とセットで覚えるようになりました。英語のほうが意味が簡単でわかりやすいと思うことも多いです。
そこで今回は、数学用語を英語でも学ぶことのすすめとして、そのメリットについて書いていきます。
原義が感覚的に理解しやすくなる
数学用語を英語で学ぶと、その元々の意味:原義が感覚的に理解しやすくなることが多いです。もともとが英語圏で生まれた考え方や言葉で、それを日本語訳したケースが多いからです。
例えば、図形に関する数学で、幾何学という言葉があります。中学校で幾何という言葉に出会って、ピンと来る人は少ないのではないでしょうか。英語で言えば、geometryです。geoが地理的・土地の、metryがメートル(m)やmetric(計量)に代表されるような測量的な意味です。(ちなみに、地理学はgeology)
「幾何(いくばく)か」という読みをすれば、測る意味合いを持っていますが、現代的には馴染みづらい言葉づかいですね。幾何学は「どのくらいですか」学のことだ、と言われれば、それを身近に実用的に思える人は増えるかもしれません。geometryの意味を知れば、土地を測ること:測量の基礎であることは少なくとも忘れないのではないでしょうか。
関数という言葉は、日本語でも意味が取りやすい言葉です。英語ではfunctionで、機能や作用という意味があります。変数\(x\)に作用した結果\(f(x)\)になるわけです。ちなみに変数はvariableで、vary(変化する)の可能な(able)ものですね。
英語から中国語訳したときに、函數(関数)という字が割り当てられました。これはfunctionとhánshù(函數)が音として結びついている、という説があります。それが事実か俗説かには諸説あるようですが。
参考:「函数」が音訳というデマと、本当の語源 – 漢字研究ブログ
日本語で考えると意味がわかりづらいと思う言葉の代表として、有理数と無理数があります。これはrational numberとirrational numberの訳語です。
rationalはratioの形容詞形で、ratio(レシオ)には比や割合という意味があります。つまり、比(分数)で表せる数=有理数というわけですね。
rationalという言葉は、非数学用語としては、合理的な(reasonable)という意味もあります。こちらの意味ならば「理」を割り当てるのもわかりますが、有理数は比の意味です。
比数、非比数とでも訳されていれば良かったのでしょうが、音の馴染みやすさの関係もあってでしょうか、有理数という表現が慣用的です。それでも、有理数とはなんだろうと定義を考えるときに、「有理数」の漢字を見るよりは、rational numberを思い出せば、わかりやすくなるでしょう。
1次関数は、英語でlinear functionといいます。リニアモーターカーのlinearですね(ちなみにリニアモーターカーはmagrlev; magnetic levitation train 磁気浮遊電車)。日本語にすれば線形関数という意味で、幾何学的な側面がわかりやすいですね。大学数学では線形代数学は基本的ですが、linear algebra、線形的な構造(直線、平面、空間)の代数学ということで意味がつながります。
日本語では区別しにくい用語
英語では区別されているけれど、日本語では区別しにくいような専門用語もあります。最初から英語を知っておけば、誤解や混同をすることはありえないでしょう。
よくある誤解:「力学」と「力学系」は、字面が似ているが別物。
前者はmechanics、後者はdynamical system。前者は物理で運動や力に関するもの、後者は時間変化する数理モデル全般の定性的分析。
多体問題など力学由来の力学系もあるが、生物の個体数増減など「力学的」でない力学系の例も多い。— 木村すらいむ (@kimu3_slime) May 28, 2022
よくある誤解:波の「位相」と数学の「位相(トポロジー)」は、文字面が似ているが全くの別物。
前者はphase、後者はtopology。
力学系の状態を集めた空間はphase spaceと呼ばれるが、これを「位相空間」と日本語訳すると紛らわしい。(そのため僕は相空間という訳語を使っている)— 木村すらいむ (@kimu3_slime) May 28, 2022
漢字による表現が固い
また、漢字による表現は固くなりやすく、結果としてその用語を日常的で身近な用語として捉えられなくなることもあるでしょう。
例えば(mathematical)modelのことを模型と訳したりします。日本語でも意味は通っていますが、プラモデルやファッションモデルのように、モデルという外来語の方が身近に感じやすいのではないでしょうか。僕はmathematical modelのことを数理モデル、または単にモデルと訳しています。
統計学の日本語の本では、標本という表現が用いられています。これはsample サンプルのことです。サンプル映像や食品サンプルなどの言葉で、取り出したものという意味がわかりますね(食品サンプルは和製英語で、食品モデルというほうが実態を表していますが)。標本というと、昆虫標本のように、取り出しただけでなく保管用の処理をしたものというイメージが浮かびます。生物標本は英語でspecimenで、そもそも単語が別物ですね。
計算機をコンピュータというのが普通になったように、専門用語をすべて漢字で表現するよりは、外来語(カタカナ語)で言ったほうが身近に感じられることもありますね。正弦、余弦、正接ではなく、サイン、コサイン、タンジェントの方が通じやすいです。
言葉は考える材料なので、やさしい言葉に翻訳できたほうが有機的に考えやすくなるでしょう。
多角的に知ることは理解を深める
僕は「英語のほうが概念を知るのに適している」と考えているわけではありません。日本語の専門用語を見たら、英語での表現も合わせて理解したほうが、その用語への解像度があがるから、試してみてはいかが、という提案です。
物事を学ぶ最初の段階において、自分の中に専門用語の辞書や索引(インデックス)を作ることは欠かせません。その辞書の良さを試すには、個々の用語について自分の言葉で説明できるか、より基本的な言葉や非専門用語への言い換えができるかで、理解度がテストできます。逆に言えば、「AとはAです」とトートロジー的にしか説明できない状態は、理解度が低いと言えるでしょう。
Wikipediaを見ると、「数学(すうがく、 英:Mathematics)」といったように、用語の読みと対応する英語が必ず書かれています。英語を知るだけでは完全な説明にはなりませんが、言葉を説明する材料のひとつとして使いやすいものです(例えばgeometryのように)。
このサイトでも、専門用語を紹介するときには、必ず英語をカッコつきで紹介しています。そのほうが直観的にわかりやすいことが多いからです。
たとえ同じ用語を扱っていたとしても、人によって、講義や本によってその用語の運用方法は変わります。その違いや共通する部分を探していけば、用語の本質がわかりやすくなるでしょう。英単語や英語の文献に触れることは、理解を深める近道になりえます。
記号の由来がわかる
しばしば、数式で用いられる記号は英語に由来しています。
例えば自然数の\(n\)はnatural numberのn、素数\(p\)はprime numberのpです。実数の集合\(\mathbb{R}\)はreal numberのRです。
最大公約数にはGCD(greatest common divisor)最小公倍数はLCM(least common multiple)という記号が用いられることがあります。整数の合同計算のmodはmodulusの訳語で、モジュラー算術と呼ばれることもあります。
物理においては、速度\(v\)はvelocity、加速度\(a\)はaccelerationに由来する文字です。
英語圏の莫大な専門情報が使える
英語で専門用語を知ることのメリットは、概念の理解を深めることだけでなく、情報を取り入れるという観点でも大きいです。
特に現代においては、ネットで英語の情報が集められます。そもそも英語話者は日本語話者に比べて多く、本やネットの情報は圧倒的に多いです。
例えば英語のWikipediaは、日本語のそれに比べてはるかに情報が多いです。Mathematicsと数学を見比べてみてください。
日本語のWikipediaは、英語のそれを一部分翻訳し、そのまま更新されていないものが多いです。例が少なかったり、翻訳が拙いことで、用語が不必要に難しく見えることもあるでしょう。これは英語のWikipediaを見ることで解決します。出典(リファレンス)や読書案内も、英語のほうが基本的にちゃんとしています。
ネットに限らず、そもそも数学の専門書は英語が基本的に多いです。数学に限らず、自然科学全般がそうでしょう。学部の前半に学ぶ数学は、日本語の本も多いし、英語圏の本も翻訳されていますが、専門書となると事情が変わってきます。日本で数学の研究をしている人で、英語の資料が読めない人はいないのではないでしょうか。研究室所属の段階から、英語の教科書や論文を読むようになっていくことが多いでしょう。
専門的な数学を学べば、そもそも日本語訳が定まっていない用語もたくさんあることに気づくでしょう。そのような状況では、「英語でも学ぶ」ではなく、「英語から学ぶ」になりますね。適切な日本語訳を考えるのも良いでしょう。
僕は英語を使って数学や科学を学ぶ方法を知ってから、日本語の文献がいかに相対的に少ないかに気づきました。それだけ、英語で書かれた文章は数が多く、結果として優れたものが多いです。中学校や高校で学ぶ英語は、非常に役に立つものとなりました。
逆に言えば、英語を使わずに、日本語だけである程度の専門知識が学べるのは素晴らしいことです。日本という国の良いところだと思いますし、この環境は維持されていてほしい。数学に限っても、英語圏の情報の多さに比べると日本語の専門情報は少ないですし、このサイトでもそれを補えればと思っています。
以上、数学用語を英語でも学ぶことのすすめとして、僕なりの理解の仕方やメリットを紹介してきました。
数学学習の最初の段階は、言葉に馴染むこと(と具体例の計算に慣れること)です。その導入として、専門用語を日本語だけでなく、英語でも捉える習慣をつけると、学びやすくなると思います。
木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。
共立出版 (2020-10-15T00:00:01Z)
¥5,940 (コレクター商品)
講談社 (1999-09-28T00:00:01Z)
¥5,955