論理学入門の話題探しに「認知バイアス辞典」レビュー

どうも、木村(@kimu3_slime)です。

数学の学習には論理学を知ることが役立ちますが、日常的な論理の話をしている本をあまり知りません。

そこで今回知った、「情報を正しく選択するための認知バイアス事典」を紹介します。

 



どんな本か

認知バイアス事典」は、人間がよくしてしまう偏ったものの見方:認知バイアスを60個紹介する本です。バイアスに限らず、論理的に見えるのに間違った結論(誤謬)を導いてしまう話、そのつもりがないのに非合理的な考え方をしてしまう話を扱っています。

本書では認知バイアスは3種、3部に分類されています。論理学的、認知科学的、社会心理学的アプローチです。それぞれの例としては、循環論法、選択的注意、単純接触効果などが有名でしょうか。

論理学の本では認知科学の話が書いてあることは少なく、認知科学の本では論理学のことが書いてある本が少ないので、「バイアス」という視点から分野横断的に書かれているのが、この本を思い白いと思うきっかけでした。

内容の読みやすさ、難しさとしては、読者は大学に入学したばかりの新入生が想定されています。大学の「論理的思考法」「認知科学入門」「社会心理学概論」のような講義での教科書・副読本としての利用が、まえがきで書かれています。これらの分野に興味がある人は、ぜひ手に取ってみてると良いでしょう。

60個の各項目は、図付きで4ページ程度でまとまっています。「どういうバイアスなのか」の説明にとどまらず、「どうしたらそのバイアスから逃れられるか」といった対処方法まで書かれているのが教科書的ではなく新鮮です。

ただし、各項目毎にきちんと参考文献が示されています。2021年には行動経済学の論文におけるデータの捏造疑惑が話題になったこともあり、バズワードとして不正確に利用されがちな用語に対して、出所が示されているのは嬉しいですね。

 

目次

  • 第Ⅰ部 認知バイアスへの論理学的アプローチ
    • 01 二分法の誤謬 / 02 ソリテス・パラドックス / 03 多義の誤謬 / 04 循環論法 / 05 滑りやすい坂論法 / 06 早まった一般化 / 07 チェリー・ピッキング / 08 ギャンブラーの誤謬 / 09 対人論法 / 10 お前だって論法 / 11 藁人形論法 / 12 希望的観測 / 13 覆面男の誤謬 / 14 連言錯誤 / 15 前件否定 / 16 後件肯定 / 17 四個概念の誤謬 / 18 信念バイアス / 19 信念の保守主義 / 20 常識推論
  • 第Ⅱ部 認知バイアスへの認知科学的アプローチ
    • 01 ミュラー・リヤー錯視 / 02 ウ サギとアヒル図形 / 03 ゴムの手錯覚 / 04 マガーク効果 / 05 サブリミナル効果 / 06 吊り橋効果 / 07 認知的不協和 / 08 気分一致効果 / 09 デジャビュ / 10 舌先現象 / 11 フォルス・メモリ / 12 スリーパー効果 / 13 心的制約 / 14 機能的固着 / 15 選択的注意 / 16 注意の瞬き / 17 賢馬ハンス効果 / 18 確証バイアス / 19 迷信行動 / 20 疑似相関
  • 第Ⅲ部 認知バイアスへの社会心理学的アプローチ
    • 01 単純接触効果 / 02 感情移入ギャップ/ 03 ハロー効果 / 04 バーナム効果 / 05 ステレオタイプ / 06 モラル信任効果 / 07 基本的な帰属の誤り / 08 内集団バイアス / 09 究極的な帰属の誤り / 10 防衛的帰属仮説 / 11 心理的リアクタンス / 12 現状維持バイアス / 13 公正世界仮説 / 14 システム正当化バイアス / 15 チアリーダー効果 / 16 身元のわかる犠牲者効果 / 17 同調バイアス / 18 バンドワゴン効果 / 19 ダニング=クルーガー効果 / 20 知識の呪縛

 

気になる点

「教科書・副読本として~」とまえがきには書かれていましたが、論理学・認知科学・社会心理学を体系的に学べる本ではない、とは思います。そもそもタイトルが「事典」であり、話題を広く拾えて、雑談や雑学のネタ拾いには良いと思いますが、基礎から学ぶ本ではありません。教科書よりはカジュアルで、気楽に読む種の本だと思います。

教科書として利用することもできますが、その場合は、講義・先生によるサポート、演習問題、気になる文献を深堀りする、といった手順が必要でしょう。

また、本の売り方のためかもしれませんが、「情報を正しく選択するための」というスタイルも気になります。まるで正しい選択(と間違った選択)、バイアスに囚われた状態とそうでない状態があるかのように見えるのです。もちろん、このような二択は本書の冒頭「二分法の誤謬」に当てはまるわけですが。

バイアスから脱却しようとする試み、知識の収集は大事だとは思いますが、価値判断から完全には逃れられず、何らかのバイアスがかかってしまうのが普通の人ではないでしょうか。それこそダニング・クルーガー効果が指摘するような知識ゆえの自信過剰にならず、「フェイクニュースに自分は騙されうる」「自分は論理的に科学的に考えないことがある」ぐらいに思っておく謙虚さも提示してほしかった、と思います。

 

以上、「情報を正しく選択するための認知バイアス事典」を紹介してきました。

身元のわかる犠牲者効果」には、そういう効果ってあるよなと思っていましたが、名前があって分析もあると知ると、より日常の中でも捉えやすくなり、人への説明にも使えそうです。

論理学を学ぶ最初の段階として、どういう考え方が非論理的か見分けられるようになるのは大事ですが、その話題探しとしても「認知バイアス事典」を利用していこうと思いました。

木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。

 

情報を正しく選択するための認知バイアス事典
情報文化研究所(著), 山﨑 紗紀子(著), 宮代 こずゑ(著), 菊池 由希子(著), 高橋 昌一郎(監修)
フォレスト出版 (2021-04-10T00:00:01Z)
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スティーブン・スローマン(著), フィリップ・ファーンバック(著), Steven Sloman(著), Philip Fernbach(著), 土方奈美(翻訳)
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