無限級数が収束する必要条件、逆は不成立:調和級数

どうも、木村(@kimu3_slime)です。

今回は、無限級数が収束する必要条件と、その逆が不成立であること:調和級数について紹介します。

 



収束の必要条件

数列\((a_n)\)により定まる無限級数\(\sum_{n=1}^\infty a_n\)が収束するとき、その項には何が起こっているでしょうか?

典型的な例として考えるのが、\(a_n = ar^{n-1}\)という形の等比数列により定まる等比級数です。これは、\(-1<r<1\)のときに収束することが知られています。

項の性質に注目すると、級数が収束するケースでは\(\lim_{n\to \infty}a_n =0\)となっていますね。

 

この関係は、次のように一般化されます。

無限級数\(\sum_{n=1}^\infty a_n\)が収束するならば、各項の極限は\(\lim_{n\to \infty}a_n =0\)となる。

確かめてみましょう。収束するので、\(\sum_{n=1}^\infty a_n= \alpha\)と置きます。\(\lim_{n\to \infty}a_n =0\)とは、収束の定義から、任意の\(\varepsilon >0\)に対し、「\(n \geq N\)ならば\(|a_n|<\varepsilon\)」を満たす\(N\in \mathbb{N}\)が存在することです。

\(\varepsilon>0\)を任意のものとします。級数の収束\(\lim_{n \to \infty}\sum_{k=1}^n a_k = \alpha\)の定義から、「\(n \geq N\)ならば\(|\sum_{k=1}^n a_k -\alpha| < \frac{\varepsilon}{2}\)」を満たす\(N \in \mathbb{N}\)が存在します。ここで、\(n \geq N+1\)のとき、絶対値に関する三角不等式を使えば、

\[ \begin{aligned} |a_n| &= |\sum_{k=1}^n a_k -\sum_{k=1}^{n-1} a_k|\\&= |(\sum_{k=1}^n a_k-\alpha)- (\sum_{k=1}^{n-1} a_k-\alpha)|\\ & \leq|\sum_{k=1}^n a_k-\alpha|+ |\sum_{k=1}^{n-1} a_k-\alpha| \\ &<& \frac{\varepsilon}{2}+\frac{\varepsilon}{2} \\ &= \varepsilon\end{aligned} \]

と評価できました。よって、\(\lim_{n\to \infty}a_n =0\)が示せました。

級数が\(\alpha\)に収束するということは、有限和\(\sum_{k=1}^n a_k\)が一定の値\(\alpha\)に近づいていくことなので、足されていく項ひとつ\(a_n\)の変化は小さくなっていく、という話です。

 

逆は不成立:調和級数

さて、さきほどの逆「各項の極限は\(\lim_{n\to \infty}a_n =0\)ならば、無限級数\(\sum_{n=1}^\infty a_n\)が収束する」は正しいのでしょうか?

これは正しくありません。\(a_ n =\frac{1}{n}\)としましょう。\(\lim_{n\to \infty} a_n=0\)ですが、\(\sum_{n=1} \frac{1}{n}= \infty\)となります。この例は有名で、調和級数(harmonic series)と呼ばれるものです。

 

いくつかの証明方法が知られていますが、\(f(x)= \frac{1}{x}\)との面積の比較によって計算示しましょう。

\(n\)を任意の自然数とします。面積の比較(積分の単調性)より、

\[ \begin{aligned}\frac{1}{n} \geq \int_n^{n+1}\frac{1}{x} dx\end{aligned} \]

が成り立ちます。したがって、有限和を取ると

\[ \begin{aligned}\sum_{n=1}^k \frac{1}{n} \geq \int_1 ^{k+1} \frac{1}{x} dx\end{aligned} \]

が成り立ち、極限を取れば

\[ \begin{aligned}\sum_{n=1}^\infty \frac{1}{n} \geq \int_1 ^{\infty} \frac{1}{x} dx\end{aligned} \]

です。ここで右辺は広義積分であり、

\[ \begin{aligned} \int_1 ^{\infty} \frac{1}{x} dx&=\lim_{c\to \infty} [\log x]_1^c\\ &= \lim_{c\to \infty} \log c \\ &= \infty\end{aligned} \]

と発散します。したがって、調和級数も発散する\(\sum_{n=1}^\infty \frac{1}{n}= \infty\)ことがわかりました。

対数関数は非常に遅く無限大に発散するので、調和級数も遅く発散すると考えられます。\(\frac{1}{n}\)を足し続けると発散するかどうかというのは、直観的には判断しづらいのではないでしょうか。

参考:多項式・指数・対数関数の極限、増大のスピード比較

 

以上、無限級数が収束するための必要条件と、逆が成り立たない例:調和級数について紹介してきました。

収束している無限級数では、少なくとも項の極限が0でなくてはならない。しかし、項の極限が0であるからといって、その級数が収束するとは言い切れず、調和級数のような例があるわけです。

一般に\(\sum _{n=1}^\infty \frac{1}{n^{s}}\)のような級数の収束・発散を判定することができますが、その簡単なケースとしても今回の話を知っておくと良いでしょう。

木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。

 

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