関数の極限に関するコーシーの収束条件と広義積分への応用

どうも、木村(@kimu3_slime)です。

今回は、関数の極限・収束に関するコーシーの収束判定条件を紹介し、広義積分への応用形も紹介します。

 



コーシーの収束判定条件

実数には、完備性と呼ばれる性質があります。

一般に、収束する数列はすべてコーシー列ですが、逆が成り立つとは限りません。しかし、実数列であるならば、「収束すること」と「コーシー列」であることが同値になります。

コーシー列とは、十分番号が進めばほとんど変動しなくなる数列です。数列\((a_n)_{n \in \mathbb{N}}\)がコーシー列とは、任意の\(\varepsilon>0\)に対し、「\(n,m \geq N\)ならば\(|a_n – a_m|<\varepsilon\)」を満たすような\(N \in \mathbb{N}\)が存在することです。

 

完備性は、数列に関して述べられたものですが、関数の極限・収束を判定するためにも使えます。

コーシーの収束判定条件(Cauchy’s convergence test)

区間上で定義された関数\(f:I \to \mathbb{R}\)、\(a\in I\)について考える。次の条件は同値。

  1. 極限\(\lim_{x\to a}f(x)\)が存在する(実数として収束する)
  2. 任意の\(\varepsilon>0\)に対し、「\(|x-a|<\delta\)、\(|y-a|<\delta\)ならば\(|f(x)-f(y)|< \varepsilon\)」を満たす\(\delta>0\)が存在する。

\(I\)が無限区間であり、\(a= \infty,-\infty\)のケースでも同様の主張が成り立つ。

級数の収束半径を求める方法として、コーシーの収束判定法(Cauchy’s root test)と呼ばれるものがありますが、それとは別物なので注意。

 

確かめてみましょう。

1を仮定します。極限値を\(b\)としましょう。極限の定義から、「\(|x-a|< \delta\)ならば\(|f(x)-b|<\frac{\varepsilon}{2}\)」を満たす\(\delta>0\)が存在します。このとき、\(|x-a|<\delta\)、\(|y-a|<\delta\)を満たす\(x,y\)に対して、三角不等式を使えば、

\[ \begin{aligned} |f(x)-f(y)|& \leq |f(x)-a|+|f(y)-a| \\ &<& \frac{\varepsilon}{2}+\frac{\varepsilon}{2} \\ &= \varepsilon  \end{aligned} \]

が成り立つこと、2が言えました。

2を仮定します。関数の連続性と点列連続性の証明と同様に、極限\(\lim_{x\to a}f(x)\)が存在することは、「\(a\)に収束する任意の数列\((x_n)\)に対し、\(\lim_{n\to \infty }f(x_n)\)が存在すること」と同値です。そこで、\((x_n)\)を\(a\)に収束する数列とします。\((f(x_n))_{n\in \mathbb{N}}\)がコーシー列であることを示しましょう。任意に\(\varepsilon>0\)を選びます。仮定より、「\(|x-a|<\delta\)、\(|y-a|<\delta\)ならば\(|f(x)-f(y)|< \varepsilon\)」を満たす\(\delta>0\)が存在します。この\(\delta\)と\((a_n)\)の収束の定義を使うと、「\(n \geq N\)ならば\(|x_n -a|< \delta\)」を満たす\(N \in \mathbb{N}\)が存在します。すると、\(n ,m \geq N\)のとき、\(|x_n-a|<\delta,|x_m-a|<\delta\)を満たすので、\(|f(x_n)-f(x_m)|<\varepsilon\)を満たすことが言えます。よって、\((f(x_n))_{n\in \mathbb{N}}\)はコーシー列で、実数の完備性からその収束が言え、極限\(\lim_{x\to a}f(x)\)が存在することが言えました。

 

広義積分への応用

このコーシーの収束判定条件は、広義積分の収束を判定するために応用できます。

コーシーの収束判定条件

  1. 広義積分\(\lim_{c\searrow a} \int_c ^b f(x)dx\)が存在する。
  2. 任意の\(\varepsilon >0\)に対し、「\(a<c_1<c_2 <d\)ならば\(|\int_{c_1} ^{c_2} f(x)dx|<\varepsilon\)」を満たす\(d, a<d<b\)が存在する。

左側端点の極限でなく、右側端点についても同様の主張が成り立つ。

これは関数に関するコーシーの収束判定条件を言い換えたものです。つまり、\(F(c)= \int_c ^b f(x)dx\)と置き、\(F\)に関してさきほどの主張を書けばこうなります。

\(a<c_1<c_2 <d\)とは、\(|c_1-a|< \delta\)、\(|c_2-a|<\delta\)の言い換えです(片側の極限を考えている)。\(d-a =\delta\)ということです。また、積分の区間に関する加法性を使えば、

\[ \begin{aligned} |F(c_1)-F(c_2)|&=|\int_{c_1} ^b f(x)dx- \int_{c_2}^bf(x)dx | \\ &=|\int_{c_1} ^b f(x)dx+ \int_{b}^{c_2}f(x)dx | \\&=|\int_{c_1} ^{c_2} f(x)dx | \end{aligned} \]

ですね。

 

これを利用して、ディリクレ積分\(\int_0^\infty \frac{\sin x}{x} dx\)が収束することを示しましょう。

原点付近では、\(\lim_{x\to 0} \frac{\sin x}{x}=1\)と連続なので、積分できます。

無限遠方で収束しているかどうか考えます。実数をひとまず\(0<c_1<c_2\)とします。その区間における積分を評価しましょう。部分積分、絶対値の三角不等式、積分の三角不等式、\(|\cos x |\leq 1\)を使うと、

\[ \begin{aligned} & |\int _{c_1}^{c_2} \frac{\sin x}{x} dx |\\&= |[-\frac{\cos x}{x}]_{c_1}^{c_2} -\int _{c_1}^{c_2} \frac{\cos x}{x^2}dx| \\ & \leq |-\frac{\cos c_1}{c_1}|+|\frac{\cos c_2}{c_2}|+\int _{c_1}^{c_2} |\frac{\cos x}{x^2}|dx \\ & \leq \frac{1}{c_1}+\frac{1}{c_2}+ \int_{c_1}^{c_2} \frac{1}{x^2}dx\\ &= \frac{1}{c_1}+\frac{1}{c_2} +\frac{1}{c_1}-\frac{1}{c_2} \\ &= \frac{2}{c_1}\end{aligned} \]

です。つまり、この区間における積分の大きさを考えると、\(c_1\)が大きくなれば\(0\)に近づきます。したがって、任意の\(\varepsilon>0\)に対し、「\(d<c_1<c_2\)ならば\(|\int _{c_1}^{c_2} \frac{\sin x}{x} dx |<\varepsilon\)」を満たす\(d>0\)が存在します。よって、コーシーの収束判定条件から、広義積分が収束することが示せました。

考えたい極限に近い2点\(c_1,c_2\)を選び、そこでの積分の大きさが極限点に近づけることでいくらでも小さくできるならば、収束すると言えるわけですね。どんな値に収束するか予測できなくても、変動が小さくなることさえ示せれば良い、というのは便利です。

ちなみに、ディリクレ積分は\(\frac{\pi}{2}\)に収束することが知られています。いくつかの示し方が知られていますが、複素積分の理論によるのが簡単でしょう。

 

以上、コーシーの収束判定条件、その広義積分への応用を紹介してきました。

この収束判定法は、広義積分の比較判定法の基礎にもなっています。また、級数の収束を示すときにも使えるでしょう(十分に大きな番号での和が、限りなく小さくなると言えば良くなる)。

極限値がわからなくても、極限が存在することさえ示せれば正当化できる計算は少なくありません(例えばガンマ関数や、初等関数の級数による定義)。収束の判定をするときは、極限値に収束することを示すだけでなく、コーシーの判定条件を使う方法も知っておくと便利でしょう。

木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。

 

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