どうも、木村(@kimu3_slime)です。
今回は、線形写像の求め方、基底の行き先によって決まることを紹介しようと思います。
線形写像の求め方
例1
ごく簡単な話ですが、1次元の線形写像、\(f: \mathbb{R} \to \mathbb{R}\)は、1点の値を指定するだけで決まります。
\(f\)は線形写像なので、\(f(0)=0\)であることから、\(f(x)=ax\)という1次関数となります。
さらに、1点の値が\(f(p)=q\)、\(p \neq 0\)であったと仮定しましょう。すると、\(f(x)= \frac{q}{p}x\)であることがわかりました。
原点を通る1次関数は、もうひとつ通る点を決めればただ一つに定まります。以降で述べることは、これを一般化したものです。
例2
\(f: \mathbb{R}^2 \to \mathbb{R}^2\)、\(f(1,3)=(3,0)\)、\(f(1,8)=(2,1)\)により定まる線形写像を求めましょう。
ここで線形写像を求めるとは、一般的な\(x \in \mathbb{R}^2\)に対して、\(f(x)=(y_1,y_2)\)という表示式を求めることです。
\(x= (x_1,x_2)\)が、既知のインプット\((1,3),(1,8)\)の線形結合として表せれば、計算できそうです。
\[ \begin{aligned} \begin{pmatrix}x_1 \\x_2 \end{pmatrix}&= c_1 \begin{pmatrix}1 \\ 3\end{pmatrix}+c_2 \begin{pmatrix} 1\\ 8\end{pmatrix}\\ &= \begin{pmatrix} c_1 +c_2\\3c_1+8c_2 \end{pmatrix}\end{aligned} \]
これを\(c_1,c_2\)について解くと、\(c_1=\frac{1}{5}(8x_1-x_2)\)、\(c_2=\frac{1}{5} (-3x_1+x_2)\)です。
よって、\(f\)の線形性を使って計算すれば、
\[ \begin{aligned} f(x) &= f(c_1(1,3)+c_2(1,8))\\&= c_1f(1,3)+c_2f(1,8)\\ &= \begin{pmatrix} 3c_1\\0 \end{pmatrix}+ \begin{pmatrix} 2c_2\\c_1 \end{pmatrix}\\ &= \frac{1}{5} \begin{pmatrix}18x_1-x_2 \\ 8x_1-x_2\end{pmatrix}\end{aligned} \]
と求めることができました。
一般論
一般に、\(V,W\)を線形空間とし、線形写像\(f:V \to W\)を考えます。\(a_1,\dots,a_n\)を\(V\)の基底とします。
このとき、任意の\(b_1,\dots,b_n \in W\)に対し、\(f(a_1)=b_1,\dots,f(a_n)=b_n\)を満たす線形写像\(f\)がただひとつ存在します。これが、部分的にしか行き先が決まっていない線形写像がきちんと定義される理由です。
確かめてみましょう。
\(a_1,\dots, a_n\)は\(V\)の基底なので、\(x= c_1a_1+\cdots c_na_n\)と表せます。この係数\(c_1,\dots,c_n\)を使い、写像\(f:V\to W\)を\(f(x)=c_1b_1+\cdots c_nb_n\)と定めましょう。
まず、\(a_i = 0a_1+\cdots+1a_i+\cdots +0a_n\)なので、\(f(a_i)= b_i\)を満たします。
さらに、\(f\)は線形写像となります。\(y=d_1 a_1+\cdots d_n a_n\)、\(\lambda \)をスカラーとしましょう。
\[ \begin{aligned} &f(x+y) \\&= (c_1+d_1)b_1+\cdots+(c_n+d_n)b_n \\&= c_1b_1+\cdots c_nb_n+d_1b_1+\cdots+d_nb_n\\&= f(x)+f(y)\end{aligned} \]
\[ \begin{aligned} f(\lambda x)&=\lambda c_1b_1+\cdots+ \lambda c_n b_n \\&=\lambda(c_1b_1+\cdots c_n b_n)\\ &= \lambda f(x)\end{aligned} \]
よって、条件を満たす線形写像\(f\)が存在することが示せました。
一意性を確かめましょう。
\(f(a_1)=b_1,\dots,f(a_n)=b_n\)、\(g(a_1)=b_1,\dots,g(a_n)=b_n\)を満たす線形写像\(f,g\)が存在したとします。任意の\(x \in V\)を\(x= c_1a_1+\cdots c_na_n\)と表すと、\(f,g\)の線形性から\(f(x)=c_1b_1+\dots+c_nb_n =g(x)\)です。よって、\(f=g\)であることがわかりました。
反例
インプット\(a_1,\dots, a_n\)が\(V\)の基底でないと、線形写像はただひとつに決まりません。
例えば、\(f(2,1)=(1,3)\)、\(f(-2,-1)=(-1,-3)\)を満たす線形写像\(f: \mathbb{R}^2 \to \mathbb{R}^2\)は、ただひとつではありません。
\((2,1),(-2,-1)\)は線形独立でなく、実質の条件が1個と不足してしまっています。
\(f(x)= (x_2,x_1+2x_2)\)、\(g(x)= (\frac{1}{2}x_1,-\frac{1}{2}x_1+4x_2)\)と置くと、\(f,g\)は条件を満たす線形写像です。しかし、\(f(1,0)=(0,1)\)、\(g(1,0)=(\frac{1}{2},-\frac{1}{2})\)で等しくありません。
同型写像
\(V,W\)の次元が等しいとき、基底\(v_1,\dots,v_n\)と基底\(w_1,\dots,w_n\)を対応させる線形写像が作れます。
すなわち、\(f(v_1)=w_1,\dots, f(v_n)=w_n\)を満たす線形写像がただひとつ存在します。
特に、この\(f\)は全単射な線形写像、同型写像となります。
確かめてみましょう。
単射性:\(x,y \in V\)、\(x \neq y\)とします。\(V\)の基底を使えば、\(x=x_1v_1+\cdots+x_n v_n\)、\(y=y_1v_1+\cdots+y_n v_n\)と表せます。\(f\)の性質を使えば、\(f(x)=x_1w_1+\cdots+x_n w_n\)、\(f(y)=y_1w_1+\cdots+y_nw_n\)です。仮に\(f(x)=f(y)\)とすると、差を取ることで、\(w_1,\dots,w_n\)の線形独立性から\(x_1-y_1=0,\dots,x_n-y_n=0\)となります。これは\(x\neq y\)に矛盾です。よって、\(f(x) \neq f(y)\)がわかりました。
全射性:任意に\(z \in W\)を選ぶと、\(z=z_1w_1+\cdots +z_n w_n\)と基底によって表せます。よって、\(f(z_1v_1+\cdots +z_n v_n)=z_1f(v_1)+\cdots+z_nf(v_n)=z\)と像として表せるので、全射です。
次元が等しい空間では、基底同士を対応させる同型写像が存在します。この議論は、例えば表現行列で使えるものです。
以上、線形写像の求め方、基底の行き先によってただ一つに決まることを紹介してきました。
ほんの少しの点でしか値を定めていなくても決まってしまうくらい、線形写像の線形性は強い性質です。ベクトルを基底の線形結合で表すことによって、線形写像を自由自在に計算できるようになってみてください。
木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。
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