well-definedとは:代表元の取り方によらない確認はなぜ必要か

どうも、木村(@kimu3_slime)です。

商集合や商空間、商群(剰余群)などを用いた議論では、写像や演算が代表元の取り方によらずに定義されているか、すなわちwell-definedかどうかを考えます。

なぜそんな確認が必要なのでしょうか。簡単な例を用いて紹介します。

 

well-definedでない例

\(\mathbb{Z} / 3\mathbb{Z}=\{[0],[1],[2]\}\)という商集合を考えましょう。

これはどういうものかというと、整数\(\mathbb{Z}\)のうち、\(3\)で割ったあまりが0,1,2であるものをまとめた集合です。それぞれの要素は

\[[0]= \{ 3k \mid k \in \mathbb{Z} \}\]

\[[1]= \{ 3k+1 \mid k \in \mathbb{Z} \}\]

\[[2]= \{ 3k+2 \mid k \in \mathbb{Z} \}\]

といった集合になっています。これらをそれぞれ、\(0,1,2\)の同値類と言うのでした。

集合として\([0]=[3],[2]=[8]\)などが成り立っているので、それらは要素として同一視されています。

参考:商集合、同値関係・同値類を解説~商群の理解に向けて

 

さて、well-definedという考え方はなぜ必要なのでしょうか。それを知るには、well-definedでないような例を考えれば良いです。

対応\(f: \mathbb{Z} / 3\mathbb{Z} \to \mathbb{Z}\)を、\(f([x])=x^2\)と定めてみましょう。これはwell-definedではありません。

どういうことか。\(\mathbb{Z} / 3\mathbb{Z}\)の要素として、\([0 ]=[3]\)が成り立っています。ここで\(f\)の定義に当てはめると、\(f([0])=0^2=0\)、\(f([0])=f([3])=3^2=9\)となります。\(\mathbb{Z} / 3\mathbb{Z}\)の1つの要素\([0]\)に対して、\(0,9\)という2つの値を取ることになってしまいました。この\(f\)は、一見すると関数であるかのように見えて、関数(写像)の定義を満たしていないわけです。

同じ同値類に属する要素は代表元と呼ばれ、\([0]\)の代表元には\(-3,0,3,6\)などが無数にあります。この\(f\)の定義は、代表元の取り方によって異なる値を定めてしまっているのです。こういうときはill-defined(きちんと定義されていない)と呼ばれ、そうでないときはwell-defined(きちんと定義されている)と呼ばれます。

 

well-definedな例

well-definedな関数を考えてみましょう。

\(g:\mathbb{Z} / 3\mathbb{Z} \to \mathbb{C}\)を、\(g([x])= \omega^x\)により定めます。ここで\(\omega\)は1の3乗根です(\(\omega ^3 =1\))。これはうまく定義されているでしょうか?

well-definedである、すなわち代表元のとり方によらずに定義されていることを確かめるにはどうしたら良いか。同じ同値類を異なる代表元\(x,y\)で表したとき\([x] = [y]\)、\(g([x])= g([y])\)が成り立つことを示せば良いです。

\([x]=[y]\)と仮定しましょう。\(x,y\)を\(3\)で割ったあまりは両方とも\(0,1,2\)のいずれかです。場合分けして示します。

  1. あまり0のとき:一般に\(\omega ^{3k}=1\)なので、\(g([x])=\omega ^{x}=1\)、\(g([y])=\omega ^{y}=1\)です。
  2. あまり1のとき:一般に\(\omega ^{3k+1}=\omega\)なので、\(g([x])=\omega ^{x}=\omega\)、\(g([y])=\omega ^{y}=\omega\)です。
  3. あまり2のとき:一般に\(\omega ^{3k+2}=\omega^2\)なので、\(g([x])=\omega ^{x}=\omega^2\)、\(g([y])=\omega ^{y}=\omega ^2\)です。

いずれにせよ、\(g([x])=g([y])\)が示せて、\(g\)はwell-definedであることがわかりました。

似た例として、\(h:\mathbb{Z} / 2\mathbb{Z} \to \mathbb{Z}\)を\(h([x])= (-1)^x\)で定めるとき、これもwell-definedです(確かめてみてください)。

\(h\)はつまるところ数の偶数・奇数(\(1,-1\))を割り当てる関数です。\(g\)は偶数奇数の2値\(1,-1\)ではなく、3値\(1,\omega, \omega ^2\)を分類する関数となっています。この考え方は、さらに一般化することができますね。

 

以上、well-definedとはどういうものか、代表元のとり方によらないことの証明がなぜ必要なのか紹介してきました。

商集合などを定義域とする写像や関数、演算を考えるときは、「表示式」があるからといって、それがきちんと定義されているとは限りません。場合によっては、同じインプットに対し2つ以上のアウトプットを返すことになってしまい、(1価の)写像とは言えなくなってしまうわけです。

商集合に関係することを学ぶときは、well-definedの考え方を身につけることも必須です。なぜそんなことが必要なのか、この記事を通して理解を深めてもらえたら嬉しいです。

木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。

 

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