数学の勉強法:眺めるな、書いて考えよ、自分の数学を作ろう

どうも、木村(@kimu3_slime)です。

僕はかつて勉強をしない子どもでしたが、大学受験や大学の数学科での勉強を通して、自分なりの数学の勉強法を見出してきました。

今回は、数学の勉強法、理解するためのコツについて、眺めるな、書いて考えよ、自分なりの数学を作ろうということを伝えたいと思います。

 



ノートを取る習慣について

「読み物としての数学入門サイト」を謳っている当サイトですが、悲しいことに、数学の本は眺めて読んでいるだけではほぼ身につかないと思っています(笑)。同様に、授業も聞いているだけ、眺めているだけでは、身につきません

 

そこでよく学校で推奨されているのが、ノートを取るという勉強法です。

「ノートを取らないでいるよりも、取っている方がマシだ」と考える教師や先生はいるでしょう。僕はノートを取る方が数学の理解につながるとは、必ずしも思いません。

確かに、ノートを取らないと怒る先生はいます。僕は経験しました。しかし真面目に話を聞き、黒板を書き写すことが、数学の理解や成績につながるかというと、必ずしもそうではないのです

実際僕はノートを取らない方でしたが、数学の成績は良い方でした。教科書や問題集を自分で読み、わからない部分をノートに書いて考えた方が意味があると思ったからです。一体何をしようとしているのか、問題を通じてトレーニングしていました。そして、既に十分なレベルで理解したら、先の内容を学んで、余力をつけていました。

 

ここで批判として想定されるのが、「自分で数学ができる人はそれでいいかもしれないが、多くの人はそれができない。だから板書を写すべきだ」という主張です。

教科書や問題集を一人で解くということが、多くの人にとって難しいのは認めます。授業や黒板をノートに書き写すことを、勉強のきっかけとして否定するつもりはありません。

しかし、書き写すという習慣は、考えを伴わない作業になりやすいものです。漢字練習など丸暗記するしかないものはまだ有効かもしれませんが、数学は単に覚えればそれで済む教科・学問ではありません(僕は漢字や英単語の暗記すら、書き写しの方法はそれほど有効でないと思ってますが)。知識をインプットしたら、それをアウトプットして柔軟に活用することが求められるのが数学です。

授業を真面目に聞いて書き写すことで、手や脳が疲労して、勉強したつもりになるのはありがちです。その苦労によって数学ができるようになるなら良いのですが、ならないならば徒労になります。結果(自分にとって未知の物事の理解)につながらない長時間の勉強は、やがて勉強そのものへの意欲を削ぐでしょう。

 

大学の数学の授業でも、しばしばノートを取る光景は見られます。

高速で板書をする先生がいるのは、大学数学あるあるですね。テスト・試験での出題範囲を知るために、たとえ理解が追いついていなくても、写している人も少なくないのではないでしょうか。

大人数の授業で学生とコミュニケーションを取るのが難しいのはわかりますが、一方的に大量の事実を伝えるのはあまり教育的ではないと思っています。

学生側はたとえノートを取るのであっても、その中で要点をまとめたり、疑問点を探すきっかけにするならば、それは勉強になるでしょう。

 

教科書の「写経」について

数学を書いて勉強することについて、よく使われるのが教科書を書き写すこと、「写経」という表現です。

写経は、本来的には、仏教の経典(お経)を書写することを意味します。それが転じて、数学書を書写することも写経と呼ぶわけです。

 

書き写す行為を通じて数学を学べる面はありますが、それを「書き写すだけで数学ができるようになる」と考えてしまいやすいのは問題だと思います。

数学を学び始めの人にとって、文章を正確に読み解くことは大事です。特に、論理を意識することは、数学的な文章を読むための基本となります。書き写す行為を通じて、文ひとつひとつの論理をチェックすること。そこまで含めれば、勉強になると思います。これを写経というのは不正確ではないでしょうか。

 

大学受験の数学の勉強法としても、「数学は暗記である」、回答や解法を書き写して覚えることが有効である、という主張を見かけます。

数学の問題の解き方のパターン(型)を知ることは、確かに有効な勉強法です。ただしパターンを見出すことが、書き写す行為を通じて得られるという主張には、疑問を覚えます。問題をたくさん解けば数学の理解が深まる、というのはよくある間違いです。

実際、僕は受験勉強を始めたての頃、記述式の問題の回答を書き写しながら勉強していました。簡単な問題では少ない知識が問われ、単に公式のパターンマッチングで解けるのですが、難しい問題ではそうはいきません。

つまり、ただ単に回答を書き写すのではなく、「どうしてそんな回答法が有効なのか、どうやって問題文からそれを思いつくのか」といったことを自分で考える必要があります。これを暗記や書写と呼ぶのは、やや不適切ではないでしょうか。

参考:数学に暗記は必要? 悪い? 公式の覚え方

 

自分の数学を書きながら作ろう

ここまで、基本的に眺めること、聞くこと、書き写すといった方法に否定的な見解を示してきました。

インプットは必要性は否定しませんが、インプットだけでは勉強にならないのです。自分で考えてアウトプットすることが、一番勉強になります

 

とはいえ、「自分で考えよう」と言われても、何をしたらいいかわからない人は多いでしょう。考えてもわからないこともあります。長い時間、頭をかしげてうんうん唸って考え(たふりをし)ても、何も身につきません。

自分で考えるコツは、書いて考えることです。これは数学に限らず、すべての勉強に有効な基本的方法だと思います。

具体的な例としては、数学者の竹山美宏さんが書いた「数学書の読み方について」がとても参考になります。

確かに最初は書き写すことから始めています。しかしそれにとどまりません。「用語の定義が言えるか?」「仮定や結論は何か言えるか?」「ひとつひとつの文が正しい理由が言えるか?」「わかったら解説を自分で書く」と、書きながら自分なりのアウトプットを残そうとしています。

 

考えることは、授業で言われたことや、教科書にかかれていることを、「本当にそうなのだろうか?」と疑い検証することです。また、もっと良い方法、わかりやすい理解はないだろうかと改善案を探しすことです。

「自分だったらこの数学をどうやって教えるか?」と考えてみましょう。自分で教科書を読み解いて、自分なりにまとめなおして、詳しい解説を書いた勉強ノートを作るのも良いでしょう

人に教えようと考えると、自分の理解の不十分な点がクリアになります。勉強ノートをネット上で公開したり、友人に発表して聞いてもらうのは非常に勉強になります。一冊の教科書を題材に、複数人で勉強し発表をする習慣は数学専攻ではよく行われており、ゼミやセミナーと呼ばれています。

 

先生や教科書から知った数学を、何も見ずに頭の中で再現するのも良いでしょう。僕は大学生時代、この方法に気づいてから、深く理解したい部分については実践していました。

頭の中で定義や証明を展開する方法は、将棋で何も見ずに対局を再現することや、目隠し将棋と似ています。

[羽生]二、三年生の頃です。じつは難しいと思うからできないのであって簡単だと思えば、できるものなんです。

[茂木]だれでもできると思いますか?

[羽生]ええ、できます。コツがありまして、例えば、歌なら最初のメロディと歌詞が出てくれば、次が出てくる。または、サビのところを思い出せば、全体もよみがえってくる、という感じです。

[茂木]みんな、歌でもここは覚えているってところがあるでしょう。将棋の一局にも、そういうポイントがあるってこと。

[羽生]将棋も一つの物語みたいなものですので、その一局の筋書きを覚えていれば、再現もできるようになります。

引用:頭の中に将棋盤ができて自由に駒が動かせる! – 日本将棋連盟

羽生さんは「簡単だと思えばできる」と言っていますが、数学についても同じことだと思います。歌や将棋に流れがあるように、数学にも流れがあります。

僕も最初はそんなことはできないだろうと思っていましたが、何度もやろうと試みるうちにできるようになっていきました。

頭の中で数学を再現しようとするにあたり、教科書の受け売りの表現では不十分であると気づきます。どうしてそんな定義をするのか、なぜこの定理を証明しようとするのか、なぜこの証明はうまくいくのか、重要なポイントはどこなのか、それを簡潔に説明しようと考えなくてはなりません。その過程で、数学への理解が自然と深まっていくのです。

この方法は、数学の研究法の本「志学数学 -研究の諸段階 発表の工夫」から知りました。すべての学習にこれを実践するには時間がかかりますが、研究に限らず勉強においてもとても有効です。

 

最終的には、授業や教科書によらず、自分にとってわからないことを探し、問いを作って答えを探すことが、勉強になります。究極的には、自分の数学を自分の頭の中に作ることです。

授業を聞くこと、ノートを取ること、教科書や問題集を写すことは、自分が数学の体系を獲得するための手段と言えます。

 

以上、数学の勉強法について、眺めるだけではいけない、書きながら考えて、自分なりの数学を作ろう、という話をしました。

これは僕なりの勉強法の提示であり、「こう勉強すれば誰でもうまくいく」といった法則ではありません。疑って自分で試すことが、考えることの第一歩です。

自分で考えることはなかなか難しいですが、自分の数学が作れるようになってくると、数学はとても楽しいものです。ぜひ勉強の中で、アウトプットを意識しながら数学を身に着ける方法を考えてみてください。

木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。

 

志学数学 -研究の諸段階 発表の工夫 (シュプリンガー数学クラブ)
伊原 康隆(著)
丸善出版 (2012-07-17T00:00:01Z)
4.7outof5stars
¥1,848

 

こちらもおすすめ

大学数学を独学するための方法・考え方

大学数学の教科書(数学書)が難しいのはなぜ? 読み方を考える

多すぎる数学の宿題に意味はない? わかるコツは「やらされない」こと

算数の苦手意識はどこから?「理系が得意な子の育て方」レビュー