限界はある?「数学で未来を予測する」レビュー

どうも、木村(@kimu3_slime)です。

読み放題サービスKindle Unlimitedの対象となっている「数学で未来を予測する ギャンブルから経済まで」を読みました。

数学を使うとどんなことが予測できるのか、むしろできないことは何のか、考えてみたことを紹介します。

 



どんな本か

数学で未来を予測する」は、未来の予測と数学に関する話が、あまり数式を使わずに書かれている本です。豆知識というか、雑学スタイルで書かれています。

微積分や確率・統計が人類にどう役立ったか、どう間違えるかといった話題はありますが、数学そのものの解説はしません。それでありながら、数学的な考え方、できるだけ正しい予測をするための考え方が書かれています。

数学の内容としては中学・高校~大学教養レベルですが、読み物として数学の事前知識なしで読むことができると思います。

 

目次

  • 序章:自然と人間、そして数学
  • 第1章:予測とは何か
  • 第2章:自然現象と数学
  • 第3章:ギャンブルに必勝法はあるか
  • 第4章:データからの予測
  • 第5章:経済現象の予測
  • 第6章:予測できること、できないこと

 

予測の限界とは

僕個人としては、数学で予測できることの話はだいたい知っていたので、むしろ予測できないことは何か、それを考えるきっかけになりました。

本書では、予測は次のように分類されています。

  • 第0型 科学的・理論的根拠のない予測・予言
  • 第1型 データに基づく予測
  • 第2型 理論に基づく予測
  • 第3型 確率的な予測

 

第0型は、数学的なものではありませんが、よく見られるものだとは思います。例えば、Twitterで「~~日に大きな地震が起こる」といった「予測」が当たることがありますが、これは下手な打っぽう数撃ちゃ当たる、根拠がなくても予測自体の数が多ければ偶然当たることもあるわけですね。

結果が的中するからといって予測が正しいことにはなりませんが(結果論)、人間の予測って大半は根拠のないものだったりするな、とよく思います。本の前半でも、人間は素早い直観的な判断を下せるのが優れているが、その第一判断が常に正しいとは限らない(よく間違う)という話が。

その間違えを補うために、数学はじっくりと考えるときの考え方をサポートしてくれます。インスタントな答えを求める方法ではないので、人によってはじれったいと思ってしまうものかもしれません(笑)。

 

第1型:データに基づく予測は、天気予報など統計的な予測が含まれますが、これはデータが十分に集められない場合は失敗します。そして数学・統計学はデータが集まった場合に妥当な推論をする方法を提供してくれますが、データそのものを作ることはできません。データサイエンスにおいても、データ分析の知識だけでなく、分析の対象となる分野の知識=ドメイン知識が必要とされているのを耳にします。

このタイプの予測をしたいならば、数学の勉強だけでなく、データを集めて考えようというマインド、またそれを行う方法を身につける必要がありますね。

 

第2型:理論に基づく予測は、天体の運動の予測に成功した力学、物理学などが典型例です。しかしながら、決定論的に決まった自然現象であっても、それが数式の上で簡単な形として解けなければ予測はできません。これが難しいのが、カオスと呼ばれる現象ですね。これは多体問題、非線形のモデルで見られるものです。

参考:惑星の運動は数学的に「解けない」? 多体問題から力学系理論へカオス理論、バタフライ・エフェクトとは何か? ローレンツ・アトラクターを例に

理論的に解が簡単な形で求められなく、たとえカオスのように不規則に見える現象でも、長期的なおおざっぱな挙動(アトラクターなど)がわかるケースはあり、こうした分野は力学系と呼ばれています。一方で、個別の挙動を近似的に知ろうとすれば、それはコンピューターシミュレーションになります。が、気象状況などカオスと思われるシステムのシミュレーションでは、短期的な予測はまだしも、長期的なシミュレーションは誤差が積み重なってしまって無理です。

 

第3型:確率的な予測の例としては、金融商品の価格変動の予測として、確率微分方程式を使ったモデル、ブラック・ショールズ方程式が紹介されていました。

価格の変動はランダムに起こるという仮定のモデルで、平時にはよく機能するようですが、リーマンショックのような大変動は予測できませんでした。物質の拡散はまだしも、人々の行動は必ずしもランダムではなく、ブラックマンデーのようにパニックの雪崩現象が起こってしまうことがあるんですね。

何らかの仮定を置かなければ人間の行動を予測することはできませんが、仮定が満たされなければ当然理論的な予測は外れます。人々は独立に行動するとか、合理的に動くという仮定は、破綻することがある。合理的な人のモデルへの批判から行動経済学と呼ばれる分野が生まれています。

(難しそうな)数学の理論を使った予測だから正しいだろう、といった謎の権威じみた予測に騙されないようにしたいですね。人間の行動予測は簡単ではないのでしょう。

 

まとめると、数学を使って厳密な予測ができるのは自然現象、そして比較的シンプルなモデルに限ります。といってもそれだけで、今までの科学や工業的な発展には十分役立ってきました。

そしてその手段が使えないものには、データを使った統計的・確率的な予測に頼ることになります。これもまた十分にデータが集まるか、ランダムに振る舞うという仮定の当てはまる現象に関しては予測が効くわけです。一方で、そうでない人間の行動は予測できないと。

自然科学でうまくいったからといって、数学・科学っぽい予測がいつでも(人間に対しても)正しいとは思わないように、注意しようと思いました(笑)。

僕は「数学で未来を予測する ギャンブルから経済まで」を、Kindleの読み放題サービスKindle Unlimitedで読みました。登録してあれば無料なので、ぜひ試しに読んでみてください。

木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。

 

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