どうも、木村(@kimu3_slime)です。
今回は、省略三段論法を具体例を交えて解説します。
省略三段論法とは
そもそも、三段論法とは、2つの前提から1つの結論を導くような推論です。
特にカテゴリー的三段論法では、結論の述語(大項)を含む前提を大前提、結論の主語(小項)を含む前提を小前提、と呼ぶのでした。
そして省略三段論法(エンテュメーマ enthymeme )とは、大前提、小前提、結論のいずれかが省略された三段論法のことです。
省略された命題の順番を省略三段論法の次数(order)と呼びます。大前提がないものは1次の、小前提がないものは2次の、結論がないものは3次の省略三段論法です。
例をいくつか見てみましょう。
あなたは乱暴な競争相手への敬意を決して失わないし、そして尊敬する人を決して嫌わない。
Pancho Gonzales アメリカのテニスチャンピオン
これは
大前提:あなたは尊敬する人を決して嫌わない
小前提:あなたは乱暴な競争相手への敬意を決して失わない
結論:(乱暴な競争相手は、あなたが嫌う人ではない)
という形の、3次の省略三段論法です。標準形としてわかりやすく書くならば、
大前提:すべての(あなたが)尊敬する人は、あなたが嫌う人ではない。
小前提:すべての乱暴な競争相手は、あなたが尊敬する人だ。
結論:すべての乱暴な競争相手は、あなたが嫌う人ではない。
この三段論法の形式はEAE-1で、妥当な三段論法です。
参考:三段論法の分類:叙法(A,E,I,O)と格、形式、妥当な15種とは
こちらはどうでしょうか。
すべての真の仏教徒は気高いが、お寺に行く一部の人々は気高くない。
これは結論が抜けている、三次の省略三段論法です。
大前提:すべての真の仏教徒は気高い。
小前提:お寺に行く一部の人々は気高くない。
結論:お寺に行く一部の人々は、真の仏教徒ではない。
と解釈すれば、形式はAOO-2で、妥当です。しかし、
大前提:お寺に行く一部の人々は気高くない。
小前提:すべての真の仏教徒は気高い。
結論:一部の真の仏教徒は、お寺に行かない。
と解釈すれば、形式はOAO-2で、妥当ではありません。前提においてお寺に行くすべての人々に関する言及がないためです。(不当な過程の誤謬、特にillicit major)
省略三段論法において省略されていることをどう補うかは、状況や文脈によるもので、そこに唯一の答えはありません。しかし仮に補いさえすれば、三段論法の枠組みで妥当性を判別できますね。
最後に、前提が抜けている例を紹介しましょう。
生産性は望ましいものだ、なぜならそれは大多数の人々の生活条件を良いものにするから。
Stephen Miller, “Adam Smith and the commercial republic“
これは
大前提:
小前提:生産性は大多数の人々の生活条件を良いものにする。
結論:生産性は望ましいものだ。
と大前提が抜けているので、1次の省略三段論法です。大前提を次のように補えば、
大前提:大多数の人々の生活条件を良くするものは、望ましいものだ。
小前提:生産性は大多数の人々の生活条件を良いものにする。
結論:生産性は望ましいものだ。
三段論法の形式はAAA-1で、妥当な三段論法です。
仮言三段論法の例を見てみると、よくこういう議論ってあるなと感じますね。世の中の多くの主張は、実質的には三段論法的な推論でありながら、前提や結論が半ば当たり前のものとして抜けています。
しかし論理学としては、欠けているものを補いさえすれば、標準形の三段論法の枠組みが、ここでも妥当性判別のために有効であることが、伝わったでしょうか。
木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。
Introduction to Logic (English Edition)
参考文献
Copi, Cohen, MacMahon “Introduction to Logic”
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