力学系の分岐理論、分岐図を簡単な例で解説

どうも、木村(@kimu3_slime)です。

力学系における分岐理論、分岐図を簡単な例を交えて解説したいと思います。

解の安定性に関する前提知識はこちら:方程式を解かずに、解の軌跡・安定性を調べてみよう 力学系理論入門

 



分岐理論とは?

分岐(bifurcation)とは、微分方程式\(\dot{x}= f(x,\mu)\)のパラメーター\(\mu\)を少しずつ変えたときに、ある値を境に、解の振る舞いが大幅に変わる現象です。

具体例を見てみましょう。

サドルノード分岐

パラメータ\(\mu\)を含む次の微分方程式を考えます。

\[ \begin{aligned}\dot{x} = \mu – x^2 \qquad x,\mu\in \mathbb{R}\end{aligned} \]

これをひとつの微分方程式として見るのではなく、パラメーター\(\mu\)を動かしたときの方程式たちの解の挙動について考えてみましょう。

 

もし\(\mu< 0\)なら、\(\dot{x}\)は常に負で、あらゆる解が負の方向へ向かい続けます。

\(\mu= 0\)のときは、解の挙動は同様ですが、\(\bar{x}=0\)という平衡解が生じます。この平衡解は不安定です。

\(\mu> 0\)のときは、\(\bar{x}= \pm \sqrt \mu\)という2つの平衡解が存在します。一方\(\bar{x}= \sqrt \mu\)は漸近安定、もう一方\(\bar{x}= -\sqrt \mu\)は不安定です。

これらの結果を図に表してみましょう。

画像引用:Wiggins Introduction to Applied Nonlinear Dynamical Systems and Chaos

横軸にパラメータ\(\mu\)、縦軸に\(x\)を取り、各\(\mu\)に対する解の挙動を表します。安定な平衡解は実線、不安定な平衡解は破線です。

この\(\mu-x\)図を、分岐図(bifurcation diagram)と呼びます。

図を見れば、\(\mu=0\)の前後で解の挙動が大きく変わっていることがわかりますね。右側では2つあった平衡解が、0でくっつき、左側ではなくなっています。

このように、ある点の前後で解の振る舞いが質的に変わる現象を分岐(bifurcation)と呼びます。そして、分岐が起こるパラメータの値\(\mu=0\)を分岐値(bifurcation value)、解の組\((x,\mu)=(0,0)\)を分岐点(bifurcation point)と呼びます。

 

分岐現象にはいくつかタイプがありますが、このタイプのものはサドル・ノード分岐(saddle-node bifurcation)と呼ばれています。

その由来は、\(\dot{x}= f(x,\mu)\)を\(\dot{y}=-y\)と連立させると、\(\mu>0\)のときの平衡解がそれぞれサドルとノードになることです。

 

トランスクリティカル分岐

続いて、次の微分方程式を考えます。

\[ \begin{aligned}\dot{x} = \mu x – x^2 \qquad x,\mu\in \mathbb{R}\end{aligned} \]

各パラメータに対する解の挙動はどうなるでしょうか。

\(\mu<0\)のとき、安定な平衡解\(\bar{x}=0\)と不安定な平衡解\(\bar{x}=\mu\)が存在します。

\(\mu=0\)のとき、平衡解は1つ\(\bar{x}=0\)で、不安定です。

\(\mu>0\)のとき、安定な平衡解\(\bar{x}=\mu\)と不安定な平衡解\(\bar{x}=0\)が存在します。

画像引用:Wiggins Introduction to Applied Nonlinear Dynamical Systems and Chaos

分岐図は上の通り。

\((x,\mu)=(0,0)\)が分岐点で、その前後で安定解と不安定解が入れ替わっています。

このような分岐は、トランスクリティカル分岐(transcritical bifurcation)と呼ばれます。

おそらく、臨界点を横断するように変化することが由来でしょう。

 

ピッチフォーク分岐

最後に、次の微分方程式の挙動を考えます。

\[ \begin{aligned}\dot{x} = \mu x – x^3 \qquad x,\mu\in \mathbb{R}\end{aligned} \]

\(\mu \leq 0\)のとき、\(\bar{x}=0\)が唯一の平衡解で、安定です。

\(\mu \leq 0\)のとき、2つの安定な平衡解\(\bar{x}=\pm \sqrt{\mu}\)と、不安定な平衡解\(\bar{x}=0\)があります。

画像引用:Wiggins Introduction to Applied Nonlinear Dynamical Systems and Chaos

左側ではひとつだった平衡解が、右側で3つに分かれています。このような三叉の分岐を、ピッチフォーク分岐(pitchfork bifurcation)、または熊手型分岐と呼びます。

 

解の安定性の理論では、ひとつ方程式を固定し、その方程式の平衡解の安定性を調べていました。

分岐理論では、ある方程式のパラメータが変化しとき、解の挙動全体がどう変化したか調べるものです。

そして、連続的にパラメータが変化するにもかかわらず、挙動が非連続的に変化することがあり、それを分岐現象と呼ぶわけです。

系のパラメータを変化させたとき解はどうなるか、似たような系なのに非連続な違いが起こるのはなぜか、こうした問題を考えるに分岐理論が役立ちます。

実際、神経細胞の発火は、分岐現象によるものだそうです。

神経細胞は,定常入力電流のレベルを増加していくと,ある閾値で周期的発火を開始するが,発火周波数の立ち上がり方によって2つのタイプに分類される.この周波数特性の違いは,分岐現象の違いに起因することが分かっている

引用:細胞システムの動態と分岐理論 田中剛平

 

今回紹介した分岐現象は、平衡解が平衡解へ分岐する、局所的なものでした。局所分岐(local bifurcation)との例としては他にもホップ分岐(Hopf bifurcation)と呼ばれるものが有名です。

一方で、ホモクリニック分岐、ヘテロクリニック分岐など、不変集合が分岐する大域分岐(global bifurcation)の理論もあります。

分岐理論は、常微分方程式に対してだけでなく、偏微分方程式に対しても可能です。

その分岐理論の、初歩的な部分を伝えられていたら嬉しいです。

木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。

 

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