どうも、木村(@kimu3_slime)です。
今回は、中心のずれた円環領域におけるポテンシャルの求め方、線形分数変換の応用について紹介します。
非同軸シリンダー(noncoaxial cylinder)とは、シリンダー(円筒)の内側の円周と外側の円周の中心が共通していないものです。これを中心のずれた円環領域と呼びましょう。
今回は、外側の円を\(|z|=1\)、内側の円を\(|z-\frac{2}{5}|=\frac{2}{5}\)としましょう。そして、内側の円と外側の円に境界条件をつけたときのポテンシャルを求める問題を考えます。
領域が一般的な形でないので解きづらいですが、それを等角写像を使って円環領域のケースに持ち込みましょう。
\(w=f(z)\)を領域\(D\)を\(D^{*}\)に写す等角写像とし、\(\Phi^{*}\)を\(D^{*}\)上の調和関数とする。このとき、\(f(z)=u+iv\)として、
\[ \begin{aligned}\Phi (x,y):= \Phi^{*}(u(x,y),v(x,y))\end{aligned} \]
は\(D\)上の調和関数となる。
正則関数の合成が正則関数となることから示せます。証明は「Advanced Engineering Mathematics」を参照してください。
\(D\)として中心のずれた円環領域、\(D^{*}\)として円環領域、\(f\)を単位円盤を単位円盤に写す線形分数変換とします。\(\Phi^{*}\)は\(D^{*}\)が単純な円環領域であることから求めることができ、それによって求めたい\(\Phi\)を得る、という流れで進めます。
一般に、単位円盤を単位円盤に写す線形分数変換は、
\[ \begin{aligned}f(z)= \frac{z-z_0}{\overline{z_0}z -1}\end{aligned} \]
\[ \begin{aligned}|z_0|<1\end{aligned} \]
と表せます。これによって、外側の単位円周はそのまま円盤に写ります。
問題は、内側の円周が原点を中心とする円周へと写っていてほしいことです。半径を\(|w|= r_0\)として、適切な\(r_0,z_0\)を探しましょう。さらに、\(z_0\)を実軸上の点として、\(\overline{z_0}= z_0\)とします。
実軸上の2点\(z=0,\frac{4}{5}\)に注目して、それらがそれぞれ\(w=r_0,-r_0\)に写るという条件を考えましょう。すると、
\[ \begin{aligned}r_0 = \frac{-z_0}{-1}=z_0\end{aligned} \]
\[ \begin{aligned}-r_0 = \frac{\frac{4}{5}-z_0}{\frac{4}{5}z_0-1}\end{aligned} \]
となり、これらを整理すれば
\[ \begin{aligned}(2r_0-1)(r_0-2)=0\end{aligned} \]
となります。\(r_0=2\)は単位円盤の外側になってしまうので、\(r_0 = \frac{1}{2}\)を利用しましょう。\(z_0 = \frac{1}{2}\)で、
\[ \begin{aligned}w=f(z)= \frac{2z-1}{ z-2}\end{aligned} \]
となります。
ここで、\(w\)平面において円環領域の複素ポテンシャルは求めることができて、
\[ \begin{aligned}F^{*}(w)= a \mathrm{Log\,}w +b\end{aligned} \]
で、その実部は
\[ \begin{aligned}\Phi^{*}(u,v)= a \log |w| +b\end{aligned} \]
です。
求める実ポテンシャル\(\Phi\)の境界条件が、\(|z|=1\)で\(\Phi(x,y)= 0\)、\(|z-\frac{2}{5}|=\frac{2}{5}\)で\(\Phi(x,y)=10 \log \frac{1}{2}\)であったとしましょう。
これらは線形分数変換\(f\)によって、\(|w|=1\)で\(\Phi^{*}(u,v)=0\)、\(|w|=\frac{1}{2}\)で\(\Phi^{*}(u,v) =10 \log \frac{1}{2}\)という条件に対応します。
代入して係数を求めれば、\(b=0\)、\(a=10\)となります。
よって、求める複素ポテンシャルは
\[ \begin{aligned}F(z)= F^{*}(f(z))\\ = 10 \mathrm{Log\,} \frac{2z-1}{ z-2} \end{aligned} \]
で、その実部は
\[ \begin{aligned}\Phi(x,y) =10 \log |\frac{2z-1}{ z-2}| \end{aligned} \]
となりました。
ポテンシャルの等高線\(\Phi (x,y)= C\)はどんな形になるでしょうか。ポテンシャルが定数ということは、対数の中身\(|\frac{2z-1}{ z-2}|\)が定数です。つまり、線形分数変換が\(|f(z)|=|w|\)が一定です。線形分数変換は等角写像であり、円・直線を円・直線に移します。\(|w|\)が一定ということは円なので、(逆)等角写像によって\(z\)変数で見ても円であることがわかりました。
以上、中心のずれた円環領域におけるポテンシャルの求め方、線形分数変換の応用について紹介してきました。
ポテンシャルを求める境界値問題を解くとき、境界がシンプルな形でないと解きづらいです。今回は、線形分数変換を利用して、境界を円環領域の形に変形させて解くことで、解が得られました。単純な形でない領域での問題を考えるときは、線形分数変換を利用できないか考えると良いでしょう。
木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。
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