代数学の基本定理とは:リウビルの定理による証明

どうも、木村(@kimu3_slime)です。

今回は、代数学の基本定理とは何か、そのリウビルの定理による証明を紹介します。

 



代数学の基本定理とは

代数学の基本定理(fundamental theorem of algebra)とは、

\(n\)次の多項式(\(n \geq 1\))

\[ \begin{aligned}P(z)=a_n z^{n}+a_{n-1}z^{n-1}+\cdots+a_1z+a_0\end{aligned} \]

は、複素数\(\mathbb{C}\)の範囲で必ず\(n\)個の解(根)を持つ

という主張です。

例えば高校数学では、2次方程式を解くときに、実数の範囲で解を持たなくても、複素数の範囲では必ず2個の解を持つことを学びます。それをn次の方程式に一般化した結果です。

\(n\)個の解は、重複を込みで数えています。例えば、\((z-i)^2=0\)といった重解では、解を2個と考えています。

ちなみに、「解を持つ」ということは、「解を必ず簡単な形で表せる」ということとは別物です。基本定理は存在を主張する定理であって、具体的に個別の解を得るには他の方法が必要となります。

参考:群論からガロア理論への入門(五次方程式の解の公式は存在しない)

 

証明

今回は、リウビルの定理

複素数平面\(\mathbb{C}\)全体において正則かつ有界な関数は、定数関数のみである。

を使って、代数学の基本定理を証明しましょう。

 

まず問題を分割し、\(n\)次の多項式\(P(z)\)がひとつは解を持つことを証明します。

背理法によって示します。\(P\)がひとつも解を持たないと仮定し、矛盾を導きましょう。

このとき、その逆数\(\frac{1}{P(z)}\)は、\(P\)が解を持たないことから正則です。さらに、有界であることが示せます。

まず、\(\lim_{|z|\to \infty}P(z)= \infty\)が示せます。最高次の係数を\(a_n \neq 0\)として議論を進めましょう(\(a_n = 0\)のときは、結局\(a_k \neq 0\)なる最高次の係数に注目すれば良いので)。

\[ \begin{aligned}P(z)= a_n z^n (1 +\frac{a_{n-1}}{a_n z}+\cdots +\frac{a_0}{a_n z^n})\end{aligned} \]

と分解でき、かっこの中身は\(|z|\to \infty\)で1に収束します。よって、\(n\geq 1\)のとき、\(\lim_{|z|\to \infty}P(z)= \infty\)です。

したがって、\(\lim_{|z|\to \infty}\frac{1}{P(z)}=0\)です。収束の定義から、「\(|z|>R\)ならば\(\frac{1}{P(z)} <1\)」であるような\(R>0\)が存在します。一方、\(|z| \leq R\)という円盤においては、\(P\)に解がないという仮定から\(\frac{1}{P(z)}\)は連続です。したがって、最大値最小値の定理より、\(|\frac{1}{P(z) }| \leq M\)となります。これらの結果を合わせれば、\(\frac{1}{P}\)は\(\mathbb{C}\)全体において有界であることが示せました。

つまり、\(\frac{1}{P}\)は\(\mathbb{C}\)において正則かつ有界です。リウビルの定理から、\(\frac{1}{P}\)は定数関数です。\(\frac{1}{P}\)が定数関数ということは、その逆数\(P\)も定数関数です。しかし、多項式\(P(z)\)は次数が\(n \geq 1\)のとき定数関数でないので、矛盾を導きました。よって、背理法より\(P\)は解を持つことがわかります。

 

以上により、\(P\)を1次以上の多項式とするとき、複素数の範囲でひとつ解を持つことが示せました。この結果を繰り返し利用することで、\(n\)次の多項式が\(n\)個解を持つことがわかります。

そのひとつの解を\(z=w_1\)としましょう。\(z=(z-w_1)+w_1\)と見て、多項式\(P\)を展開し、\(z-w_1\)のべきとしてまとめると、

\[ \begin{aligned}P(z)= b_n(z-w_1)^n+\cdots+b_1(z-w_1)+b_0\end{aligned} \]

と表すことができます。\(b_n,\dots,b_0\)は展開の結果現れる係数です。ここで\(P(w_1)=0\)から\(b_0=0\)です。したがって、1次式をくくりだして、

\[ \begin{aligned}P(z)=(z-w_1)(b_n (z-w_1)^n +\cdots +b_1) \\ = (z-w_1)Q(z)\end{aligned} \]

\(Q\)は\(n-1\)次の多項式、と表すことができました。いわゆる因数定理です。

\(Q\)に対して今までの論法を繰り返せば(詳しく言えば数学的帰納法により)、

\[ \begin{aligned}P(z)= c(z-w_1)(z-w_2)\cdots(z-w_n)\end{aligned} \]

と因数分解できます。\(z^n\)の係数を両辺で比較すれば、\(c=a_n\)です。よって、\(n\)次の多項式は(重複込みで)\(n\)個の解を持つことがわかりました。

 

以上、代数学の基本定理とは何か、そのリウビルの定理による証明を紹介してきました。解を持たないとすると、多項式の逆数関数が正則かつ有界な関数、つまり定数関数となって矛盾してしまう、というわけでした。

ちなみに、代数学の基本定理には、複素解析に限らない実にさまざまな証明が知られています。

複素数を考える必然性や理由のひとつとして、代数学の基本定理があります。代数学の基本定理を目指しつつ、それを支えるリウビルの定理やコーシーの積分公式を学ぶと複素解析は面白いのではないでしょうか。

木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。

 

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