どうも、木村(@kimu3_slime)です。
素数は無限に存在しますが、それがどのように分布しているかは、未だにわかっていない部分があります。
今回は、素数の並び方について、ディリクレの素数定理を紹介します。
等差数列に含まれる素数
ディリクレの定理は一般的な形をしているので、まずは具体的にどういうことを考えようとしているのか紹介しましょう。
例えば、すべての整数を偶数と奇数に分けてみましょう。すると、偶数の列\(2,4,6,\dots\)と奇数の列\(1,3,5,7,\dots\)ができあがります。この数列と素数の関係を考えると、次のことが言えないでしょうか。
奇数列\(1,3,5,7,\dots\)は無限に多くの素数を含む。
これは正しいです。
まず、偶数である素数は\(2\)以外に存在しません。つまり、\(3\)以上の素数は奇数です。なぜなら、\(3\)以上の素数で偶数であるものが存在すると仮定すると、約数として\(2\)を持つので、素数であることに矛盾するので。
そして、素数が無限に存在することは知られています。奇数列に有限個の素数しかないと仮定すると、偶数列と奇数列に含まれる素数が有限個になり、整数に素数が無限に含まれることに矛盾します。よって、奇数列は無限に多くの素数を含むわけです。
この結果は、\(2n+1\)の形をした等差数列が無限に多くの素数を含む、と言い換えられます。そこで、別の形の等差数列について、同様のことが言えないか考えてみましょう。
すべての正の整数は、\(4n,4n+1,4n+2,4n+3\)のいずれかの形で表せます(除法の原理)。\(4n\)と\(4n+2\)は偶数なので、素数を無限に多くは含みません。したがって、素数を無限に多く含みうるのは、\(4n+1\)または\(4n+3\)となります。
\(4n+3\)がどんな数列なのか見てみましょう。\(4,7,11,15,19\),\(23,27,31,35,39\),\(43,47,51,55,59\)となります。\(7,11,19,23,31\),\(43,47,59\)は素数で、ひとまずは素数を含んでいそうです。
等差数列\(4n+3\)は無限に多くの素数を含む。
この主張を確かめてみましょう。素数が無限に存在することの証明同様、有限個しかないと仮定しても、新たな素数が存在することを示す方法を取ります。
\(4n+3\)の形をした素数が有限個しかないと仮定し、そこから矛盾を示します。その形のすべての素数を\(p_1,\dots,p_N\)とします。\(K=4(p_1 p_2 \cdots p_N-1)+3\)で定まる整数について考えましょう。\(4p_1 p_2 \cdots p_N\)は偶数なので、\(K\)は奇数です。
\(K\)を素因数分解して、\(K=q_1q_2\cdots q_M\)と表します。\(K\)は奇数なので、すべての素因数\(q_k \)は偶数ではありません。したがって、\(q_k\)は\(4n+1\)か\(4n+3\)の形になります。
ここで、\(4n+3\)の形になる素因数\(q_{\ell}\)が存在することを示しましょう。そのために、\(4n+1\)の形の整数の積は\(4n+1\)の形になることを確かめます。\(a,b\)を整数として、\((4a+1)(4b+1)=4(4ab+a+b)+1\)が成り立つことからわかります。\(K\)は\(4n+3\)の形なので、少なくともひとつの素因数\(q_{\ell}\)が\(4n+3\)の形をしていることがわかりました(すべての素因数が\(4n+1\)の形だと、積が必ず\(4n+1\)の形になることから、\(K\)が\(4n+3\)の形であることに矛盾する)。
すると、\(q_{\ell}\)が\(4n+3\)の形のすべての素数\(p_1,\dots,p_N\)とも異なることがわかります。仮に\(q_{\ell}=p_m\)となったとしましょう。\(q_{\ell}\)は\(K\)の素因数であり、\(K\)を割り切ります。一方で、\(p_m\)は\(4p_1 p_2 \cdots p_N\)を割り切るので、\(p_m\)は\(K\)を割り切りません。これは矛盾です。
よって、\(4n+3\)の形をした素数は\(p_1,\dots,p_N\)ですべて表されているはずにもかかわらず、そのどれとも異なる\(4n+3\)の形の素数\(q_{\ell}\)が見つかりました。仮定は偽であり、等差数列\(4n+3\)は無限に多くの素数を含むことが示せたわけです。
この証明がうまくいったポイントには、「\(4n+1\)の形の整数の積は\(4n+1\)の形になること」があります。
別の形として、\(4n+3\)の形の整数の積を考えてみましょう。\((4a+3)(4b+3)=4(4ab+3a+3b+2)+1\)なので、\(4n+1\)の形になってしまいます。
「等差数列\(4n+1\)は無限に多くの素数を含む」ことをさきほど同様に示そうとしても、\(4n+3\)の形になる素因数\(q_{\ell}\)が存在するとは言い切れないわけです。しかし、事実としてはこれは正しいと知られています。
ディリクレの素数定理とは
今までの主張を一般化したのが、ディリクレの素数定理(Dirichlet prime number theorem)です。
\(a,b\)を互いに素な正の整数とする。等差数列\(a,a+b,a+2b,\dots\)は無限に多くの素数を含む。
これは算術級数に関するディリクレの定理(Dirichlet’s theorem on arithmetic progressions)とも呼ばれていますが、算術級数という用語は日本の数学用語ではメジャーではありません。等差数列に関するディリクレの定理といったほうが適切でしょう。
この証明は簡単ではなく、ルジャンドル記号(ディリクレ指標)やL関数と呼ばれる概念を用います。ディリクレはこの主張を示すために、整数や代数的手法に限らない手法、無限級数により定まる複素変数の関数を持ち出して調べました。こうした解析的手法によって整数の性質を調べる分野は、解析的整数論と呼ばれています。
ディリクレの素数定理によれば、\(4n+1\),\(4n+3\)の形の等差数列は無限に素数を含むことがわかります。
また、下一桁が\(a=3,7,9\)の素数は無限に存在することが示せます。なぜなら、\(b=10\)とそれらは互いに素だからです。
\(b=100\)としてそれと互いに素な2桁の数を考えれば、下二桁が特定の形をした素数が無限に存在することもわかりますね。例えば、\(11,111,1111,11111,\dots\)には無限に素数が含まれるわけです。これは明らかだと思えるでしょうか? 僕には不思議な感じがして、面白いですね。
ゴールドバッハ予想とは
素数の分布に関して、簡単に述べられるけれども未だ証明されていないものとして、ゴールドバッハ予想(Goldbach’s conjecture)は有名です。
すべての偶数は、2つの素数(または1)の和として表せる。
試してみると、\(6=3+3\),\(8=3+5\),\(10=5+5\),\(100=41+59\),\(1700=709+991\)と、確かに2つの素数の和として表すことができます。コンピュータによる検証では、 \(4 × 10^{18}\)以下の偶数については正しいことが確かめられているようです。参考:Goldbach conjecture verification
ゴールドバッハ予想は、他の結果と関連して正しいと予想されていますが、2021年現在も証明されていない未解決の問題です。ただし、「5より大きな奇数は3つの素数の和として表せる」という弱いゴールドバッハ予想は、2013年に肯定的に解決されているようです。
以上、どんな等差数列に素数が無限に含まれるか、ディリクレの素数定理について紹介してきました。
素数そのものの一般的の性質を調べることは難しくとも、例えば\(4n+3\)という形の特殊な整数・素数について調べると、何かわかることがある、という手法は汎用性がありそうですね。
木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。
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