ガウスの消去法による逆行列の求め方、原理

どうも、木村(@kimu3_slime)です。

今回は、ガウスの消去法(行基本変形)による逆行列の求め方、その原理を紹介します。

 



逆行列の求め方、計算方法

\(A\)の逆行列\(A^{-1}\)とは、\(AX =XA =I\)を満たすような\(X\)のことでした。

参考:可逆な行列(正則行列)とは?例と同値な条件

行列\(A\)の横に単位行列\(I\)を並べた行列\( \begin{pmatrix} A & I \end{pmatrix} \)をガウスの消去法(行基本変形)によって、\( \begin{pmatrix} I & X\end{pmatrix} \)という形にしたとき、\(X=A^{-1}\)となることが知られています。(原理は後で解説)

行基本変形

  1. ある行を定数倍する(0倍を除く)
  2. ある行の定数倍を別の行に加える
  3. ある行と別の行を入れ替える

参考:線形方程式の解き方:ガウスの消去法と基本変形・ランク、LU分解

 

ひとまず、簡単な例で試してみましょう。

\( A=\begin{pmatrix} 1& -1\\- 2 & 1 \end{pmatrix} \)の逆行列を求めてみます。\(\begin{pmatrix} 1& -1 &1&0\\- 2 & 1 &0&1\end{pmatrix} \)を行基本変形していきましょう。

第1行の2倍を第2行に加えて、\(\begin{pmatrix} 1& -1 &1&0\\- 2 & 1 &0&1\end{pmatrix}\sim \begin{pmatrix} 1& -1 &1&0\\0 & -1 &2&1\end{pmatrix} \)です。

第2行を-1倍して、\(\begin{pmatrix} 1& -1 &1&0\\0 & -1 &2&1\end{pmatrix}  \sim\begin{pmatrix} 1& -1 &1&0\\0 & 1 &-2&-1\end{pmatrix}\)です。

第2行を第1行に加えれば、\(\begin{pmatrix} 1& -1 &1&0\\0 & 1 &-2&-1\end{pmatrix} \sim\begin{pmatrix} 1& 0 &-1&-1\\0 & 1 &-2&-1\end{pmatrix}\)となりました。

よって、\( A^{-1}=\begin{pmatrix} -1& -1\\- 2 & -1 \end{pmatrix} \)です。(\(AA^{-1}=I\)となるか、検算してみてください)

 

もうひとつやってみましょう。長いので省略気味に。

\( B=\begin{pmatrix} 1& 2& 1\\ 2 & 1 &3 \\ 1& 3& 2\end{pmatrix}\)とします。まず、左下の成分を消しつつ、対角成分を1にしていきます。

\(\begin{pmatrix} 1& 2& 1 &1&0&0\\ 2 & 1 &3& 0&1&0 \\ 1& 3& 2&0&0&1\end{pmatrix} \sim \begin{pmatrix} 1& 2& 1 &1&0&0\\ 0 & 1 &-\frac{1}{3}& \frac{2}{3}&-\frac{1}{3}&0 \\ 0& 1& 1&-1&0&1\end{pmatrix}\)

\( \begin{pmatrix} 1& 2& 1 &1&0&0\\ 0 & 1 &-\frac{1}{3}& \frac{2}{3}&-\frac{1}{3}&0 \\ 0& 1& 1&-1&0&1\end{pmatrix} \sim  \begin{pmatrix} 1& 2& 1 &1&0&0\\ 0 & 1 &-\frac{1}{3}& \frac{2}{3}&-\frac{1}{3}&0 \\ 0& 0& 1&-\frac{5}{4}&\frac{1}{4}&\frac{3}{4}\end{pmatrix}\)

続いて、右上の成分を消していきましょう。

\( \begin{pmatrix} 1& 2& 1 &1&0&0\\ 0 & 1 &-\frac{1}{3}& \frac{2}{3}&-\frac{1}{3}&0 \\ 0& 0& 1&-\frac{5}{4}&\frac{1}{4}&\frac{3}{4}\end{pmatrix} \sim \begin{pmatrix} 1& 2& 0 &\frac{9}{4}&-\frac{1}{4}&-\frac{3}{4}\\ 0 & 1 &0& \frac{1}{4}&-\frac{1}{4}&\frac{1}{4} \\ 0& 0& 1&-\frac{5}{4}&\frac{1}{4}&\frac{3}{4}\end{pmatrix} \)

\(\begin{pmatrix} 1& 2& 0 &\frac{9}{4}&-\frac{1}{4}&-\frac{3}{4}\\ 0 & 1 &0& \frac{1}{4}&-\frac{1}{4}&\frac{1}{4} \\ 0& 0& 1&-\frac{5}{4}&\frac{1}{4}&\frac{3}{4}\end{pmatrix} \sim   \begin{pmatrix} 1& 0& 0 &\frac{7}{4}&\frac{1}{4}&-\frac{5}{4}\\ 0 & 1 &0& \frac{1}{4}&-\frac{1}{4}&\frac{1}{4} \\ 0& 0& 1&-\frac{5}{4}&\frac{1}{4}&\frac{3}{4}\end{pmatrix} \)

よって、\(B^{-1}=\frac{1}{4}\begin{pmatrix} 7& 1& -5\\ 1 & -1 &1 \\ -5& 1& 3\end{pmatrix}\)です。

 

逆行列を求める原理

主張(1) \(A\)が可逆であることは、行基本変形だけによって\(A\)を単位行列にできることと同値。

(列基本変形についても同様の主張が成り立つ)

これを利用して、ガウスの消去法によって逆行列を求める原理を説明しましょう。

行列\(A\)が与えられたとして、行基本変形によって\(PA =E\)とできたとします。逆行列の定義より、\(A^{-1} =P\)です。つまり、\(A\)を単位行列に変形する行基本変形\(P\)を求めれば良いわけです。そこで、\( \begin{pmatrix} A & I \end{pmatrix} \)に同じ基本変形を施せば、\( \begin{pmatrix} I & P \end{pmatrix} \)となり、右側に逆行列\(A^{-1} =P\)が現れるわけです。

 

主張(1) は、次の主張から導かれるものです。

(2) 正方行列\(A\)が可逆であることは、\(A\)がフルランク\(\mathrm{rank}A =N\)であることと同値。

これは重要な同値条件です。証明しましょう。

\(A\)が可逆であると仮定します。基本変形によって、\(A\)は階段形\(PAQ =\begin{pmatrix} I_r& O\\O & O \end{pmatrix} \)に変形できます。基本変形を表す行列\(P,Q\)は、可逆です(逆に戻る操作ができますよね)。可逆な行列の積もまた可逆なので、\(PAQ\)は可逆です。よって、\(r=N\)でなければなりません。仮に\(r<N\)とすると、両辺に\(PAQ\)の逆行列をかけると、左辺が\(I_N\)ですが、右辺は\(r\)行までしか成分を持ちません。\(r\)行以降に等しくない部分があるので、これは矛盾です。

\(A\)がフルランク\(\mathrm{rank}A =N\)と仮定しましょう。基本変形によって、\(PAQ =I \)となります。このとき、\(A=P^{-1}Q^{-1}\)と、可逆行列の積として表せるので可逆です。(逆行列は\(A^{-1}= QP\))

 

主張(2)から主張(1)を導けます。

\(A\)が可逆とします。主張(2)により\(A\)はフルランクで、基本変形によって\(PAQ=I\)とできます。ここで右から\(Q^{-1}\)、左から\(Q\)をかければ、\(QPA=I\)です。つまり、行基本変形\(QP\)により単位行列にできます。

逆に、行基本変形のみによって\(PA=I\)とできたとしましょう。このとき\(A\)はフルランクなので、主張(2)より\(A\)は可逆です。

 

逆行列を求める途中で、ある行が0ベクトルになれば、主張(2)によって可逆ではありません。

例えば、\( C=\begin{pmatrix} 1& 2& 1\\ 2 & 1 &3 \\ 3& 3& 4\end{pmatrix}\)は、可逆ではありません。ランクが2となることを確かめてみてください。

 

以上、ガウスの消去法による逆行列の求め方と、その原理を紹介してきました。

ガウスの消去法(行基本変形)は、1次方程式の解法だけでなく、行列の可逆性(ランク)の判定、さらには逆行列を求める方法として使えます。基本変形のやり方に慣れて、行列の可逆性やランク、次元の判定といった問題を解けるようになりましょう。

木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。

 

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