「趣味の大学数学」は、厳密化・抽象化だけをありがたがらない

どうも、木村(@kimu3_slime)です。

このサイト「趣味の大学数学」について思ったこと、数学と厳密化・抽象化の話を書きます。

 



厳密化・抽象化は現代数学の大きな力

まず出発点として、大学数学において、厳密化・抽象化は大事なものであることを僕は認めています。

なぜ教養数学として微積分学と線形代数学を学ぶのか ブルバキが現代数学に与えた影響 」という記事で書きましたが、現代の(20世紀の)数学は、集合論をベースとした公理的なアプローチによって発展してきました。この効力は疑いようのないもので、僕はそのアプローチがあるからこそ、数学を見通しよく理解できます。

バラバラの分野がたくさんある数学ではなく、順序立てて理解していけばすべての分野が原理的に理解できるようになっている。

厳密化や抽象化は、確かに(大学)数学の武器であると言えます。ですから、このサイトではその厳密化や抽象化の役立ち具合も紹介したいと思っています。

 

厳密化・抽象化だけが数学ではない

とはいえ、とはいえですよ? 厳密化・抽象化だけが数学ではありません。数学の楽しみ方にはさまざまなアプローチがあって良いと思います。

例えば数学の応用を考えるなら、基礎理論をすべて抑えていなければならない、ということはありません。

例えばAIのプログラムを書きたいとしましょう。

そのためには深層学習が必要で、深層学習の基礎には機械学習があります。そのためには統計学の勉強がが必要です。統計学を原理的に理解するなら確率論が必要です。確率論をちゃんとやるなら測度論の勉強が必要です。

じゃあ測度論からやりますか……とやっていたら、厳密さは得られるかもしれませんが、(ほとんどの人は)応用にたどり着けません。たどり着く前に時間かモチベーションを失ってしまいます。

目的とするレイヤーに合わせた厳密さ・抽象化が必要だと思います。例えば目の前にで倒れている人がいて、役に立つのは医学知識であって、生物の基礎原理である化学・物理や、その基礎である数学の知識を(直接は)使わないのです。

 

また、多くの数学分野も、そもそも厳密化・抽象化によって始まったものではありません。

ニュートンが打ち出した物理学・微積分学は、現代の厳密な基準からすれば曖昧な部分があるものですが、それでもよく天体の運動を説明しました

フーリエは「任意の関数は三角関数にの和で表せる」と主張し、それは厳密に言えば正しくはないのですが部分的には正しく、のちの数学の発展に寄与しました。

解析学が厳密化したのはコーシーやディリクレやワイエルシュトラスによるもので、数学全般が抽象化したのはヒルベルトやブルバキによるものです。

参考:19世紀の解析学における 「厳密化革命」とは何か – J-Stageイプシロンデルタ論法の形成過程の考察:解析学の基礎の転換の要因 – 数理解析研究所講究録

つまり、「数学は厳密でなければならない」というのは現代数学(20世紀数学)のドグマ(教義)にすぎないものであって、もちろん大事ではあるのですが、厳密であるだけ・抽象化するだけで数学が発展してきたわけではないでしょう。

厳密化・抽象化する前の例や発見があってこそ、厳密化や抽象化は生きるのだと、僕は思います

 

面白い数学をしよう

というわけで、趣味の大学数学では、基礎理論をすべて紹介したり、証明しなければならないとは考えていません

そもそも大学の集合・位相論の教科書でも、素朴な形で集合というものをとらえて話を進めていくわけで(素朴集合論)、公理的集合論をベースにすることは稀でしょう。自然数や実数の存在も、当たり前のものとして認めて進める分野はあります(もちろん自然数や実数の構成をする分野では基礎から考えますが)。

すでにわかっている話は、このサイトではなく教科書に任せればいいと思っています。ニュートンも、その発見は巨人の方に乗ったもの、先人の積み重ねによるものであると自覚していました。(参考:巨人の方の上 – Wikipedia

 

それよりも、大学数学の面白い例や、一般の人がそれを学ぶための入門となる文章をサイトでたくさん提供していきたいです。

基礎の話は本当に無数に教科書の内容があり、それを詳しく解説したところで知りたい人は少ないんじゃないかと思います(僕も使わない分野の基礎理論には興味ない)。知りたい人は自分でやればいいし、「基礎」が読み解けるようになる段階の話はちゃんと扱います。

ただ、基礎の話をして基礎固めをしようとして話が1950年代で止まるくらいなら、基礎は欠けるけども複数の分野の発展的・応用的な話を紹介したいです

 

現代数学の特徴は厳密化と抽象化……だからといって、最初から厳密で抽象的な数学を与えられても、その前段階を知らないと興味が持てないのではないでしょうか。

数学科に進み数学の研究をしたい人はそれで良いかもしれませんが、数学を趣味として知りたい人、なんとなく知りたい人からすると、教科書にのっている・基礎と言われているからという理由で興味のない・使わない数学を知ってもしょうがないと思います。一般の人が数学にだけ時間がさけるわけではないことはわかるので、まずは時間をさきたいと思ってもらえることが大事ではないでしょうか。

数学はなぜ学校教育で教えられたり、大学の教養科目となっているのか。それは抽象論だから厳密だから大事とされているわけではないと思います。抽象化の結果いろんな対象が扱えるからいろんな分野で生きてきて、厳密化の結果によって多くの人が同じ結果を手にできるからです。抽象化されてるから、厳密だからといって、それだけでありがたがるものでもない、と僕は思います。

 

「趣味の大学数学」は、数学研究をしたい人のための数学サイトではない、という話でした(研究したい人は自分で教科書や論文読んで考えるしかない笑)。

どちらかというと、数学を知らないけど数学が気になってる、何か違う分野で数学や数学の考え方を使ってみたい人向けです。そんな人たちが、大学数学をどこから学ぶか、モチベーションやヒントを提供できたらと思います。

木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。

 

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